595 あり得ない存在
セレーネたちが仮の身体を得る為にはQCかそれに匹敵するコンピューターが存在していなければならなかった。
しかし、AIの計算では早くとも後五百年はかかるとのことだった。
また、その時には七人の人元が同時に出現する可能性が高いことも分かっていた。
そう、彼女たちと人元を同じくする日土モモとミカンの誕生である。
セレーネたちは連絡を取り合いながら暫し眠りに就くことにした。
彼女たちはその為の準備をしつつ今一度この時代に於ける人元の動きや関係性を確認した。
ここで見落としがあれば今後についての計算も的外れなものとなってしまうからだ。
とは言え、今まで幾度となくこの作業を繰り返す中でもそのようなことは起こらなかったし起こり得なかった。
もしそれが起きたとしたら、それは正にグリミドとアーカレッドが行方不明になった事件と同等の異常事態なのだ。
だが、一応の作業を進めていく中でセレーネたちは一つの異変に気が付いた。
この時空にある筈のない人元の出現が確認されたのだ。
GmUが狂う前から人元次元を利用した他世界への干渉は成功を収めていた。
そこではどのような人元が人間として現世に出現し周囲との関係を構築しているのかまでもが詳細に判明していた。
だが、ここにはシステムで感知できない人元(つまりは人間)が一人、確かに存在していたのだ。
今までこのような現象は一度もなく、それはとても不可解なものであった。
七人は一旦眠りに就くのをやめてその原因を探ることにした。
何故ならその存在によって多くの人元が明らかに影響を受けていたからだ。
それにより、この時代に於いては一生無関係であった筈の多くの人元が関連付けられ、この場に特異な変化を与えていた。
これは一体何を意味するのか。
イレギュラーな事態はもう一つあった。
それはセレーネたち七人がいない筈のその人間とそれに影響を受けた多くの人元について調査をしていた時であった。
突如としてこの場にミネルヴァ・エトルリアが現れたのだ。
セレーネたちは彼女にその理由を聞いて驚愕した。
先ずはこのミネルヴァを含む四人(ファランクス)が謎の覚醒を遂げたこと。
そして、その力によってあれ程劣勢だった革命軍を立て直し、遂にはウラノス自身と直接対決するまでに至ったこと。
更に、勝利まであと一歩というところで起こった大異変。
それによってゼウス率いる革命軍は覚醒を遂げた四人だけとなってしまったのだ。
また、月影ユメノたちの内、ただ一人セレーネたち七人の人元と一致しなかった大地カナエの人元がミネルヴァのそれだったという偶然も彼女たちを困惑させた。
そんなことが果たしてあり得るのだろうか?
偶然と言うには余りにも出来過ぎていた。
だが、例のここにはいない筈の人間の存在同様、その理由は解明できなかった。
ミネルヴァに関しては彼女たちの仲間である以上、縁が深かったとも考えられる。
実際、人元の座標はかなり近い場所にあった。
それに比べ、存在するはずのない人間がここにいる理由は皆目見当が付かなかったのだ。
彼女たちはGmU程ではないにしても、ある程度その世界に存在する人々の人元を分析することができた。
つまりそれは、誰がどんな性格でどんな記憶を持つのか等を把握できることを意味していた。
また、人元の表層部の位置関係から、これからその近辺でどのような事態が起きるのかも大方予測ができたのだ。
勿論、これまたGmU程ではないにしろ人々に干渉することもできた。
だが、それをすればこの世界の可能性領域に大きな歪を生み出し兼ねなかった為、滅多なことはできなかった。
彼女たちは『情報爆発』といった概念こそ持たなかったがそのような事態に対する恐れはしっかりと持ち合わせていたのだ。
因みに情報爆発とは、その世界に大きな影響をもたらすであろう過度な情報を与えることによって、その世界が連続する周囲の世界から切り離されて消滅、或いは虚数次元に飛ばされてしまう現象をいう。
これはビーマなど高次元生命体の持つ概念の一つであり、三次元生命体がそれを把握できる術はない。




