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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
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594 野菜を食べよう!

 水野が小道の方から戻って縁側に座るタエに視線を戻すと何やらハナコがそこに駆け寄って来た。

「これ、食べて。」


 それは一本の胡瓜きゅうりだった。

 タエはこれからハナコに必要であろう食料をいただくわけにはいかないとそれを拒んだ。

「それはハナちゃんのよ。ちゃんと取っておかないと。」

 だが、ハナコはグイっとその胡瓜をタエの方に押し付けた。


 タエがやつれているのを見てお腹がすいていると感じたのだろう。

 タエはハナコの目を見て「そう、ありがとう」と言いながらそれを受け取った。


 タエはその胡瓜きゅうり美味おいしそうに食べてからハナコにお礼を言った。

「ありがとうね、ハナちゃん。とっても美味しかったわ。」

 ハナコは嬉しそうな顔をしてまた家の中に入って行った。


 タエは慌ててハナコに呼び掛けた。

「ハナちゃん、もういいのよ! お腹いっぱいだから!」


 だが、ハナコは人参や山菜などそのままでも食べられそうなものをその小さな手いっぱいに抱えて持って来た。

 タエは困惑しながらもハナコが押し付けて来たそれらの野菜を受け取った。

「分かったわ。ハナちゃん、ありがとう。私、必ず元の平和な村を取り返すからね!」


 そう言うとタエはそれらの食べ物をむしゃむしゃと食べ出した。

 その顔を見ていたハナコは不思議そうな顔をしてタエに尋ねた。

「タエちゃん泣いとお?」


 タエは鼻をすすりながらそれに答えた。

「うん、美味しくってね。ハナちゃんの野菜が美味しくって……。」


 水野は彼女たちのその姿を見て静かなる怒りに身を振るわせた。

 こんなにも平和な村を害するきゃつら……許すまじ!


 水野は近くに放ってあった木の板に残りの墨を使って伝言を書いた。

 そして、それを足で掴んでタエに手渡すとすぐにサンガ村へと向かった。


 タエは水野カラスを目で追ったがすぐにも見えなくなってしまった。

 その板には『必ず戻る、待つが吉』とだけ書かれてあった。

「確かに今は下手に動けないものね。分かった。あなたに任せるわ。」


 ハナコは板を見つめるタエの横にちょこんと座った。

「お花を見て歌お。そうしたらね、みんな楽しいのよ。」


 タエはハナコの言葉に「うん、うん」とただうなずいた。

 ハナコはこの家の主であるおハルおばさんに教えてもらったわらべ歌を両足を動かしながら楽しげに歌唱した。



 さて、話は前後はするがそもそも何故セレーネたちがこの時代にいたのか。

 事の始まりはGmUゲームの異変だ。


 その頃グリミドとアーカレッドは既に仮想世界へのダイビングを成功させていた。

 そして、関係者の多くは寿命が尽きた後でもしばらくはシステムを管理できるように仕事を仮想世界に移行していた。


 そんな折、GmUの様子がおかしいということでグリミドとアーカレッドが調査に向かったまま行方知れずになってしまった。

 更にはGmUの勝手な振る舞いが目立ち始め、遂には制御不能となって行った。


 一計を案じた二人のリーダー、ゼウスとニュクスはGmU開発の中心メンバー七人をこの場から退避させることにした。

 その七人こそがセレーネたちだったのだ。


 七人はゼウスたちに何かあった時の為の最後の切り札として選出されたのだ。

 この七人が去れば戦況は著しく危ういものとなるだろうことは分かっていた。


 この時点ではファランクスの四人もまだ覚醒しておらず既に多くの者がGmUの手に落ちていた。

 それもすべて考慮に入れた上での、これはまさに苦渋の決断であった。


 グリミドとアーカレッド不在のこの時、GmUを封じることのできる可能性を持つのは彼女たち七人だけだったのだ。

 AIにより七人の人元が共に生活している時空がいくつか見つかり、その中でも最適とされたのがこのシチヨウの里だったのだ。


 ただし、ここには七人のうち六人だけが一緒に生活しており、ガイアだけがりどころである人物が出現していなかった。

 その為ガイアはτファウンデーションをりどころとしながらエオスと行動を共にしていた。


 つまり、エオスと共に日土フタエの中にいたのだ。

 それは七人のうちでもガイアとエオスは特に人元の座標や波長が近かったからだ。

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