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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
592/625

592 暗闇からはさっさと抜け出して、いざや光の先へ!

 通り過ぎた後もゴギャクのがなり声は暫くの間水野の元まで聞こえて来た。

 この耳障りな騒音をいつまでも拾い続けてしまうカラスの優れた聴覚。

 水野も今回ばかりはこれを残念に思う羽目となった。


「しかし絵に描いたような悪党だな……。」

 水野は半笑いでそうつぶやくと金城に今あったことを伝えた。


 もう少し利口な奴だったら圧倒的物量と未知の武器を持つこの村に力押しされてしまう所だろうが……。

 だがここで水野には別の懸念が芽生えた。


 本当の黒幕はやはりゴギャクの叔父であるトアクであるということ。

「つまり、すべてはトアクのてのひらの上ってことか……。だが、奴の目的は一体何なんだろう……。」


 水野が束の間そんなことを考えているとタエが捕らえられていた牢の周辺を探していた男がこちらの方に向かって来た。

「おい、誰かそこにいるのか?」


 ゴギャクたちが去りわずかなタエの呼吸音や匂いがこの場に気配を放ってしまったのだろうか。

 どうやら自分たちの存在に気付かれてしまったらしい。


 男は松明たいまつの火を揺らしながら水野たちの方へと近づいて来た。

 このままでは見つかってしまう!


 水野は一か八か「カーッ!」と大きな鳴き声を上げてバサバサっと牢の方へと羽ばたいた。

 男は「うわっ!」と悲鳴を上げて尻もちを付いた。

「何だ……カラスか!?」


 男は一応岩場の影を覗いたがそこには誰もいなかった。

 タエはその隙に上手いこと音を立てず男のかかげる松明たいまつあかりが届かない岩の側面へと移動していたのだ。


 男は周囲を確認するとそそくさと出口の方へと歩いて行った。

 どうやら彼は忍びの訓練等は受けていない凡人だった。


 もしそのような熟練者なら確認を怠らなかっただろうからだ。

 タエは何とか急場をやり過ごし胸をで下ろした。


 一方、それを見届けた水野は牢の方へと引き返した。

 それを見ていたタエもその後を追った。


 この辺りは牢の上部から漏れる光のお陰で完全な真っ暗闇ではなく目が慣れるとわずかばかりだが周囲に見える部分が浮かぶのであった。

 タエはそれを頼りに手探りで元いた牢の方へと向かった。


 タエは牢の奥で何やら上方を見回している水野に尋ねた。

「ソウコ、どうする積もり?」


 水野カラスは牢の上部にある光が差し込んでいる場所へと飛び乗った。

 そこには思った通り穴がありそこから光が入り込んでいたのだ。


 穴はそこそこの幅があり、思っていた以上に小柄だったタエであれば通れそうだった。

 水野は足に仕込まれていた火種を使ってタエの持つ松明にさっと火を付けると今度は先程金城が岩陰に隠した巻紙を下に落とした。


 そしてここで待っているよう墨で書き留めた。

『待ち居給え』


 タエは追手がこちらに再び戻ってこないかと気にしながらそれを読んだ。

「分かったわ。ここで待ってればいいのね?」

 水野カラスは巻紙を元の岩陰に隠すと「アーッ!」と鳴いてその穴から外に抜け出した。


 このまま出口に向かってもゴギャクたちに見つかってしまうだろう。

 それなら一か八か、この穴から抜け出すことを試してみた方が助かる見込みは高い。


 水野が穴から抜け出すと目の前には湖が広がっていた。

 左手は湖に出張った岬のようになっていた。

「ここは岬か?」


 水野は穴の出口から少し上方に移動した。

 すると、右手の方に民家のようなものが見えた。


 水野は取り敢えずその民家の側まで近ずき様子を窺った。

「誰もいない? いや、何か聞こえる。人の声みたいだが……。」


 その音は家の裏側の方から聞こえて来た。

 水野は民家の屋根からそのあたりを見下ろした。


 そこには小さな少女が歌を歌いながら何かの作業をしている姿があった。

 どうやらこの少女以外の人間は見当たらない。


 水野はここで自分が為すべきことを思い出した。

「あ、いけない! 今はボーっとしている暇はないんだわ!」

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