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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
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59 芸能事務所

 アテナのオーナーでありボカロユニット『ファランクス』の発起人ほっきにんでもある柿月ユタカは現在、芸能事務所の社長と会食をしている。


 この芸能事務所『ツイストーラス』は大手の老舗しにせ芸能事務所からネットメディア専門の子会社として独立したばかり。


 社長の小橋レイナは『ファランクス』をとても気に入っており、デビューが決まるとその翌日にはプロモーション映像に着手していた。

 それは様々なメディアで紹介され、すぐにも拡散された。

 評判はまずまずといった所で、DVDの売上も少しずつ伸びているとのことだ。


 ユタカはず初めにファランクスの復活が遅延ちえんしている事を謝罪した。

「予定より大分遅れてしまい、申し訳ありません。」


 小橋社長はゆっくりとうなずいた。

「いや、それはいいのよ。ええと、ブースターエンジンだっけ?」


 ユタカは真面目な表情のまま言った。

「はい。色々ありまして……。」

「そりゃあ大変でしょうよ。パフォーマンスのレベル上げなんてそんな簡単な仕事じゃないんだから。」


 小橋社長はアイスコーヒーをストローでかき回した。

「で、どんな感じなの?」


 ユタカは言った。

「はい。アテナとメーティス。それとニーケの3名につきましては既に調整の段階に入っています。」

「後はミーネだけか。」

「はい、ミネルヴァにつきましては少し時間がかかっていますが既に復旧の目処めどは立っています……。」


 小橋社長は上目遣いでユタカを見ながら言った。

「ん?」

 どうやら最後の「……。」に違和感を感じた様だ。


 ユタカは素直に言った。

「正直、心配な事がございまして。」

「うん。」

「1つ目は今言ったミネルヴァのことですが、これは成功を祈るよりありません。」

「そう。うん、それで?」


 ユタカは声を細めて言った。

「これは内密という事でお願いしたいんですが……。」

「何よ。急に改まっちゃって。」

「実は事情によりファランクスは会話をすることができなくなってしまったんです。」


 小橋社長はユタカの顔を不思議そうに見つめた。

「会話? 会話って……最初からできないじゃないの。」

 ユタカは面喰った顔で小橋社長の目を見つめた。


 小橋社長は少し笑いながら言った。

「ファランクスにそんなもの期待なんて、最初からしてないでしょ。」

「はあ。」

「歌。後はパフォーマンス。それがファランクスの全てじゃないの。」


 どうやら社長と自分との間に期待すべき、されるべき点の齟齬そごがあった様だ。

「そうですか。そう言っていただけると肩の荷が下ります。」

「そうよ。」


 小橋社長はアイスコーヒーを一口吸い上げると言った。

「で、蟹江は何て言ってんの?」


 ユタカはいきなり出て来た蟹江さんの名に驚き、思わず目を見開いた。

「え……今、蟹江さんておっしゃいました?」

「そうよ。だって蟹江は私の後輩だもん。3Dボカロで何かやってんでしょ。主任だっけ?」


 知らなんだ……。社長が蟹江さんの先輩とは……!

「いや……。正直驚きました……。」


「ほら、驚いてないで。ファランクス教えてくれたのだってあいつなんだから。」

 それを聞いてユタカはまたもや驚いた。

 世間が狭いとはよく言ったものだ……。


 小橋社長は事も無げに言った。

「まあ、とにかく新生ファランクス、期待してるから。」


 ユタカは大事な用件を言い忘れていたことに気が付いた。

「あ、そうだ!」

「今度は何?」

「実は、その蟹江さんから夏フェス参加の依頼が来まして……。イベントの方なんですが。」


 小橋社長は文句たらたらな口調で抗議した。

「……え! ちょっとあんた、それを先に言ってよ~!」

「はあ、申し訳ありません。忘れてました……色々驚きすぎて……。」


 小橋社長はバッグからスマホを取り出して何かを調べると、再び文句を垂れた。

「夏フェスって……後八日ようかしかないじゃないのよ! ちょっと~。」


 当初、小橋社長は今回の夏フェスでファランクスのライブを開催する予定であった。

 だが、このブースターエンジンの話を聞いて参加については断念しており、それについての準備は一切して来てなかったのだ。


 ユタカは苦笑いするしかなかった。

「申し訳ありません。重ねがさね……。」


「まあ、ミーネの復旧が確定するまで言えなかったんでしょうけど……。」

 流石さすが小橋社長。分かってくれてる……。


 小橋社長は少しイライラした様に爪を歯に当てた。

「とにかく、これは急がなきゃ……間に合うかしら。」

「え、何か。」

「宣伝打たなきゃならないでしょ。それに……ちょっと! 歌とか衣装とか決まってる事があったら全部出して。」


 ユタカは面喰ったが直ぐに対応した。

「分かりました。今夏フェスの資料を社長のメールに送信しますので。」


 小橋社長は随分慌てた様子で誰かとスマホで通話し出した。

「あ、もしもし。今からすぐ戻るから、みんな集めといて!」


 電話を切ると小橋社長は言った。

「あなたも一緒に来れる?」


 ユタカは即答した。

「はい、行かせていただきます!」


 いよいよ明日、ミネルヴァが帰って来る……。

【人物紹介】

 私 … 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた


【私のオーナー】

 本田サユリ … 私のオーナー。大学生。サナの姉。しっかり者

 本田サナ … 私のオーナー。9歳。サユリの妹。歌が大好き


【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット

 アテナ・グラウクス … オーナーは柿月ユタカ(ヨナの兄)

 メーティス・パルテ … オーナーは星カナデ

 ニーケ・ヴィクトリア … オーナーは春日クルミ

 ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … オーナーは大地ミノル


【私のナビゲーター】

 斎藤節子 … ナビゲーター。部長

 ナミエ… 正式名称C73EHT-R。AIポリスの特殊捜査隊隊長。新米ナビゲーター(仮)

 山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手


【株式会社3Dボーカロイド】

 蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。2児の母

 蛯名モコ … 第6研究開発部主任。美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子


【株式会社ツイストーラス】芸能事務所

 小橋レイナ … 社長、代表取締役


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