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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
587/625

587 洞窟の奥のさらに先

 軽快に走る大型猫のあまりの速さに野鼠のねずみの軽量な身体では振り落とされてしまいそうだった。

 水野は猫毛の根元にみついて何とかその場をしのいだ。


 前方に分かれ道が現れた時、水野はにおいの向きから「右よ!」と伝えた。

 だが、金城は自信有りに答えた。

「分かってるって! 猫だってすんごい鼻が利くんだから! このっせ~においは嫌でも鼻に付くってもんよ! ソウコちゃんは道順だけ覚えとって!」


 水野はそれを聞いて安心した。

 そこで彼女は先程から気になっていた別の香りについて考察した。

 洞窟内には多くの人間のにおいが混在していたがそれは少し独特だった。

「これは花か何かの香りだろうか? 初めてタエと会った時にもこれと同じようなにおいがしていたような気がする……。」


 その香りは人間にとってはとても軽微で控え目なものだった。

 だが野鼠の水野にとってはその青々としたほのかな香りは爽やかな優しさを感じさせるものであった。

「これはやはりタエの香りなんだろうか?」


 四つ目の分かれ道で金城ネコは足を止めた。

 多くの匂いが左に流れる中、台場の香りと思われるものだけが右に向かっていた。

「ん? こいつは……どっちに行けばいいんだろう。」


 ゴギャクたちの悪臭は左右両方からにおって来たが左の方がきつかった。

 恐らく先に左の方に監禁されている村人たちの様子を見てから台場タエの方に行くつもりなのだろう。


 そこで水野はず台場の安否を確認しようと考えた。

 二匹がその先に足を進めると、ここまでよりゴギャクたちの臭いは薄らいだが先程の清々(すがすが)しい香りはまるで二人をいざなっているように際立ってきた。


 かなりの距離を走ったが一本道だったこともあり、ものの五分で一つ目のうなや(牢屋)に辿り着いた。

 ここまでの道沿いにもいくつかのろうが点在していた。


 だが、その一つ一つはとても小さく人一人入るのがやっとという大きさだった。

 水野はそれらを見て思わず身震いした。

「タエ、こんな所に……あいつら何て酷いことを! 一刻も早く見つけ出さなきゃ!」


 途中、他より比較的大きめの牢があり、そこにはちょっとした生活臭が残っていた。

 それを見て金城は水野に確認した。

「どうやらしばらくここに監禁されてたみたいやね。」

「ああ、てぇことはまだ生きてるかも知れない! 先を急ごう!」


 そこから少し走ったところで洞窟は行き止まりとなっていた。

 台場タエのものと思われる香りは行き止まりの右下辺りから流れ出していた。

「ミナヨちゃん、ここから下に行けるみたい。」


 足元には裂け目のような穴があり中を見ると縄梯子が掛けられていた。

 初めのうちは急な坂であったが徐々に水平となり洞窟の幅も広くなっていった。


 そこから更に一分ばかり走ると何か薄暗く照らされている場所が見えた。

 二人がそこへ近づくとそこには木の格子こうしで閉ざされたうなや(牢屋)があった。


 金城の猫は中に入ることができなかったが水野の野鼠のねずみは難なく中に入ることができた。

 するとそこには一人の人間が死骸のように横たわっていた。


 水野は心の中で思わず叫んでしまった。

「タエ! 生きてるの? 返事をして!」


 しかしその声は野鼠の鳴き声となって空しく外に響くだけであった。

 さて、どうするか。

 ずは生きているかどうかを確かめねばならない。


 水野は嗅覚と聴覚を研ぎ澄ませ彼女の生死を確認しようとした。

 だがその時、金城猫がニャーと一声鳴いた。


 台場の指がかすかに動いたのだ。

「水野、この人まだ生きとる!」


 水野は咄嗟とっさの判断でずは水分を与えようと考えた。

「ミナヨちゃん、ここから少し戻ったところに水たまりがあったでしょう? そこから水を運んで来れないかな。」


 金城は「がってん! ちょっと行ってくる!」と叫ぶやさっと身をひるがえした。

 水野は台場タエの顔の前に走り込んだ。


 呼吸はとても弱弱しく唇が渇ききっており、とても危険な状態であることがうかがわれた。

 そう言えば金城はどうやって水を運んで来るつもりなんだろう……。


 水野はそれを支持しなかったことを悔やんだ。

 一刻を争うって時に私は……!

 そうだ、アンフィトリテに頼んで……。


 その時、「おっとさん!」と言う声がアンフィトリテを通して水野の耳に届いた。

 金城猫はものの三分ほどで戻って来たのだ。

「水は?」

「ああ、この中にあるよ。このわんの中にね!」

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