586 いざ、洞窟へ
二人は人目に付かないようゴギャクたちを探し回った。
そして、何とか彼らの根城としているらしき屋敷に潜入することができた。
だが、そこにゴギャクたちの姿はなかった。
金城は辺りをきょろきょろ見回した。
「やっぱりいねえな……。一体何処さ行きやがったんやろ。」
水野は一際広いつくりの部屋を見つけ、その中の様子を観察した。
そこには誰もいなかったが座布団が数枚と湯呑みが置きっ放しになっていた。
「ミナヨ、どうも奴らはこの部屋にいたらしい。」
水野は上座に置かれた二枚の座布団に着目した。
その二枚だけは他の座布団の位置から少し離れた場所にあったのだ。
恐らくここにゴギャクとトアクが座っていたと見える。
水野は金城に一つお願いをした。
「私、これからネズミにでも憑こうと思う。」
「え、ネズミって……何でよ?」
「ネズミは鼻が利くからね。奴らの匂いを追うには打って付けでしょう? それにカラスだと翼が邪魔で狭いところに入れないかもしれない。」
「あ、成程! でも、カラスと違って危ないんじゃないの? 猫や鳥もいるし、ネズミ取りだって……。」
「そこでね、ほら、ここに入ってくる時に大きくて強そうな猫がいたでしょう?」
「ああ、あれね! あいつにはたまげたわ。思いっきり睨んでくるしさ。マジで襲われるかと思ったよ。」
水野はそれを聞いて「はは……」と苦笑した。
「実はね、その猫に憑いて来て欲しいのよ。」
「え! ああ……成程、そうゆうことか……。」
「ごめんね。怖いのは分かるんだけど私を守って欲しいんよ。」
「うーん……分かった! ソウコちゃんの頼みならしゃあない! 私、頑張ってみるわ!」
「ありがとうね、ミナヨちゃん。そうしてくれると助かる。」
二人は屋敷の屋根に上がり見晴らしのいい場所に移動した。
空は晴れており雨の降る様子は一切なかった。
「よし、これなら行ける!」
二人は頃合いの良い場所で胸の布袋を結んである紐を嘴で引っ張った。
この布袋は背中に結び付けてある憑き石を入れた小鞄と連結しており全体で見るとリュックのような形状となっていた。
胸の布袋が開くと中から白い物体がごろりと転がり落ちた。
これは鳥黐と呼ばれるもので鳥や小動物を捕獲するのに使用する粘着性のある物質である。
この鳥黐は木陰の父親が配合した特別製でカラスといえども少量で捕獲することができた。
二人が先程天気を気にしていたのはこの鳥黐が大量の水を含むと溶けるようにできていた為だった。
水野と金城はそれぞれ憑こうとしている野鼠と猫を視界に捉えると両足を鳥黐の中に突っ込み自由が利かないことを確認した。
何とかカラスをその場に固定しつつ目的の動物に憑くことができた二人は早速ゴギャクたちの足取りを追った。
ところで水野としてはこのミッションを早急に済ませてしまいたかった。
獣から獣への取り憑きは初めてだったし鳥黐の効果についても心配だったのもあるが要はそれではなかった。
これからゴギャクの臭いを追って行くわけだが彼女はその匂いに耐え難いものを感じていたからだ。
これが台場タエを監禁し村人たちを脅かすゴギャク野郎の匂いかと思うと反吐が出そうだったのだ。
それは嗅覚の優れたカラスにとって実際とても嫌な臭いだった。
いくら頭が切れると言っても一少女たる水野ソウコには耐え難いものがあったのだ。
「これで更に鼻の利くネズミになったら……。」
金城はそんな水野の心情を察した。
「地獄かよ……。」
その嫌な臭いは裏山の方へと続いていた。
それに気付くや否や水野の胸中にある期待が押し寄せた。
「これはもしや……!」
その期待は現実のものとなった。
ゴギャクたちの臭いは裏山にある例の洞窟の中に続いていたのだ。
二人は足を速めたが小さな野鼠よりも猫の方が断然早かった。
そこで水野は金城猫の背に乗せてもらうことにした。
猫は当の金城も驚くほど俊敏に洞窟を駆け抜けた。
「うっひょーっ! こいつは凄い! 風みたいに走りよる!」




