584 サンガ村を偵察せよ
初老の男が岩の上方に向かって大きな声で呼び掛けた。
「我ら、主らに危害を加えるつもりなし! 姿を見せよ!」
すると今度は数枚の葉っぱが舞い降りて来た。
五人はそれらを拾い集め文章が通じるように並べてみた。
『是れ術による伝達也』
『我、里に留まりし』
『我、タエの友也』
『信ずるならシチヨウへ』
『付近にて迎える』
五人は暫し押し黙ったまま文字の書かれた葉っぱを眺めていた。
サブロウはその沈黙を破るように呟いた。
「これで信じろっつってもなあ……。」
初老の男は首を傾げた。
「タエの友とはどうゆうことだろう……。交流でもあったのか? 相手はシチヨウだが……。」
その時ジロウが何かを思い出した。
「そう言えば前に見たことがあるぞ。タエが鳥を飛ばすところを! 一体どこに飛ばしたのかと聞いてみたが、そん時は教えてくれなだ。もしかしてあれが……文でも交わしとったんちゃうやろか!」
タイチロウは腕を組みながらこくこくと頷いた。
「ああ、あれか。それな、お前だけじゃあない。周りの皆も気付いちょった。敢えて口には出さんかったがな。だが、今やそいつが密偵の嫌疑を掛けられた証拠として挙げられちょるわけや。」
初老の男は並べられた葉っぱを見ながらその太い眉を顰めた。
「もしそれが本当なら、こいつも満更偽りではないということか?」
老人は「うむ」と頷き初老の男の言葉に同意した。
「ならば善は急げじゃ。何れにしても村の衆を救う手立ては限られとるようだしな。ここは岩の後ろで何やら企んどるカラスどもに賭けてみるしかあるまい。」
すると岩陰から二羽のカラスがバサバサっと飛び立った。
そして、上空で一回りしながらカアーッと一声上げると何処ぞへと去っていった。
老人以外の四人は思わずそのカラスたちを目で追った。
タイチロウが怪訝な顔で老人に尋ねた。
「まさかあのカラスどもがこの葉っぱを?」
ジロウは反笑いでそれに応えた。
「流石にそれはあり得ん。仮にあのカラスらがやったにしても何処か遠方から操っていたのではないのか?」
初老の男はその言葉に疑問を持った。
「だが、この内容は我らの話を聞いてないとそうそう書けるものではないぞ……。」
サブロウが不思議そうな顔で尋ねた。
「てえことは何だ? あいつらが我らの話を聞きこの文を書いたってのか? あのカラスが……んなことありえねえっぺぇよ。なあ、翁よ。」
老人はカラスが飛び去った方向を眺めつつ「ほっほっほ」と笑った。
「さあ、どうじゃろうのお。」
水野と金城は天女たちの力で彼らの会話を聞きつつサンガ村へと向かった。
彼らがシチヨウの里に向かうとしても暫く間があるだろうと考えたからだ。
水野は金城が心配になり声を掛けた。
「ミナヨ、まだ大丈夫そうかのう。カラスには慣れた?」
金城は元気いっぱい返事をした。
「大丈夫よ! もうちょっと練習したいと思ってたとこやわ! それに、そうゆっくりもしてられへんようやしな。」
サンガ村の様子は明らかに異様だった。
村人の姿はほとんど見られず、一見してならず者と分かるような連中がそこかしこで幅を利かせていた。
幾つかの集団はまだ昼間だというのに酒を酌み交わし大声で騒いでいた。
また、鍛冶場の近くには何やら巨大な鉄の塊が置かれており、その周囲にこれまた見かけたこともない物騒な者たちが集まっていた。
二人は近くの屋根の上からその鉄の塊を偵察した。
金城が天女を介して水野に質問した。
「あれは……一体何やろうね?」
「あれは装甲車とちゃうやろか。」
「装甲車?」
「うん、下に車輪がついてるでしょう? 左右に四つずつ。中に人が入れるみたいやし……四人くらいかな?




