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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
582/625

582 サンガ村の五人衆

 水野は金城が無事だったことを確かめて取りえず胸を撫で下ろした。

「よかった。袋があったおかげで衝撃を和らげることができたみたいね。」

「けどやばい! 袋が落ちた!」

「ああ、一緒に探しに行こう。そうだ……。」


 水野は憑石つきいしの行方についてアンフィトリテに尋ねた。

「ミナヨの憑石が落ちた場所って分かりますか?」

「大丈夫、任せて。今座標から割り出すから。」

「座標?」

「この場合、私たちと憑石の距離を東西、南北、高さの三方から測った数値よ。」

「成程……そんな考え方が!」


 金城と水野はアフロディーテに指示されるまま憑石の落ちた場所へと向かった。

 アフロディーテは的確に石の在処ありかを伝えてくれた。

「もうちょい右、そうそう。その大きな岩のところにあるわ。」

「ああ、あれか!」


 二人はやっとのことで憑石を探し当てた。

「ふう、よかった。おおきに、天女様。」


 その時水野が「ん?」と呟いた。

 金城はそれを聞いて水野に尋ねた。

「ソウコ、どうしたん?」

「人の声がする。ほら、岩の裏。」

「え? ……あ、本当だ。」


 岩の反対側はどうやらけもの道になっているようだった。

 二人は悟られないように岩の上へと羽ばたいた。


 するとそこにはサンガ村の者と思われる男衆が五人。

 老人と初老の男が若い衆三人に何やら説明しているようであった。

「おい、誰にも聞かれてないだろうな。」

「ああ、ここなら大丈夫じゃ。皆、新しい道を通るからのう。」


 どうやら岩の裏にある道は昔使用されていた旧道らしかった。

「それにしても、いやあ、大変なことになりよったなあ……。」

「おい、どうゆうこっちゃ。俺たちはまだ何も聞かされてないぞ。」


 水野は男たちの人相から悪い人間ではなさそうだと感じた。

 初老の男が腕を組みながら渋い顔をして言った。

「ああ、実はのぉ……今村に集まっとる輩じゃが、あいつら相当の悪党らしい。」


 すると若い衆のうち一番年長と思われる背の高い男が返事をした。

「そいつぁ見た目からしてそうじゃろう。ありゃあ、まともなもんじゃねえ。」


 初老の男は渋い顔のまま話を進めた。

「ああ、どうやらゴギャクの仲間らしい。あんな輩、一体何処どこき集めて来たんだか……。」


 背の高い男は悔しそうな顔をしてこぶしを握った。

「あいつ、しばらく見ねかったと思ったらあんな奴らと関わっとったんか!」


 恐らく彼らはゴギャクに異を唱える反乱分子と言ったところだろう。

 水野は事と次第によっては彼らと接するのもやぶさかではないと感じた。


 だがこれは危険を伴う行為でもあり、しっかりと彼らの人となりをとらえなければならなかった。

 彼らが反ゴギャクであったとて、必ずしもこちら側に付くとは限らないからだ。


 もし、カラスの身のままで彼らに何らかの方法で接したならば、それはこちらの切り札である獣憑けものつきの技をさらすことになる。

 これは里の命運を大きく左右する行為であり水野と金城の判断では如何いかんともしがたかった。


 ただ、時間的な余裕がないのも事実であり彼らの会話の内容からゴギャクの元には新たな仲間が、しかもかなり凶悪な者たちが集結しつつあるようだった。

 これも彼の叔父とやらの計画といったところだろうか。


 水野は迷っていた。

 もし、彼らと接触するなら今を置いて他にあろうか。


 彼らが村に戻ってしまえば周囲の目を気にしながら接触するしかないのだが、それが至難であることは容易に想像できる。

「さて、どうしたものか……。」


 その時、金城が一つのアイディアを提案した。

「ねえ、墨ツボを使ってみたら? 姿を見せずに文字で伝えれば獣憑けものつきのことはバレないと思うよ。」


 成程……彼らにしてもまさかカラスの中に人がいるとは思わないだろう。

 水野は近くに大量に落ちている葉っぱから大きめのものを見繕みつくろった。


 そして、墨ツボのふたを引き抜きくちばしの先に墨を付けてその葉っぱに文字を書いてみた。

 最初はうまく行かなかったがすぐにコツをつかむことができた。

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