58 ロックオン
サユリはタオルで額の汗を拭いた。
「ふう、それにしても暑いな。」
あ、そこはさすがに変わらないんだ。
サナは気を利かせて姉に提案した。
「あそこの公園で水飲めるよ。」
サユリは力の抜けた声で言った。
「うん。ちょっと休憩しよう。」
私たちは公園の中央にある噴水の方へと足を運んだ。
とても緑が豊かだ。
ちょっとした自然公園かな。
噴水を囲むように屋根付きベンチが設置されている。
サナは元気に走った。
「あそこなら水道があるよ! アハハハ!」
サユリはフウフウ言いながらサナを呼び止めた。
「ちょっとサナ、走らないでよ!」
サユリは水道の水を飲みながらサナに言った。
「サナ、あんた元気いいわね。こんな暑いってのに。」
「うん、だって頭が涼しいから。ほら!」
サナは元気よく言った後帽子を脱いで底の部分をサユリに向けた。
サユリは怪訝な顔をしながら帽子に顔を近づけた。
「え、なあに? 帽子の中……? わ! これ涼しい!」
サナは再び帽子をかぶりながら自慢気に言った。
「これ、クーラー付いてんの。冷た過ぎなくて丁度いいよ!」
サユリは悔しそうにその帽子を見つめた。
「ぬぬぬ、こっちがこんなに暑い思いしてるってのに……ちょっとそれ貸しなさいよ!」
「じゃあ、ちょっとだけね。」
サユリはサナから帽子を借りて頭を涼めた。
「へえ、ホント涼しい!」
サユリがボカロボを返そうとするとサナが言った。
「ちょっと首が疲れて来たからお姉ちゃんかぶってて。」
うん、軽量化してあるとはいえ九歳の帽子としてはちと重いかもしれない。
サユリは自分のかぶっていた帽子をサナに渡して言った。
「はい、じゃあ代わりにこれかぶっときなさい。」
サナは嬉しそうにそれを受け取った。
私はサユリの頭の上に乗っかった。
お、目線が高い! ちょい遠くまで見渡せるよ。
公園で少し休んでから更に五分ほど歩くと、どうやらサナの学校に行き着いた……らしい。
柵の向こうには今さっき休憩した公園の様な光景が広がっていた。
サナは自慢げな顔をしてボカロボの私に教えてくれた。
「ここ、サナの小学校。」
「へえ、すごい立派! サナちゃんこんな豪華な学校通ってるんだ。」
「へへへ、そう。」
門の近くまで行ってみたが、どうやら中には入れない様だ。
よく見ると奥の方に……かなり奥の方に建物が見える。
う~ん。よく見えないな。あれが校舎かな?
するとピーチが話しかけて来た。
「ズームしますか?」
「え、できるの? じゃあお願いします。」
「ズームの操作はハンドルのレバーでもコントロールパネルからでも可能です。」
「コントロールパネル?」
「失礼しました。マスターが居間などで使用しているコンソールの子機のことです。」
「ああ、成程。まあ今日はせっかくなのでハンドルでやってみますかね。」
「了解しました。」
私がハンドルを握るとそれらしいスライド式レバーが点滅した。
あ、これか。それではズームっと……。
親指でレバーをスライドさせると建物がみるみる大きくなった。とても近代的な造り。
メチャクチャ高級そうな校舎! 等と言っていると、急にモニター画面が物凄い速さで右に移動した。
「ぎゃっ!」
どうやらサユリが身体を左に向けてしゃがんだ様だ。
「どうしたの? フィナ。」
目の前にはサナの目のどアップが映し出されていた。
ピント調節機能も即時対応……。
「いえ、何でもありません。ちょっとズームしてたもんですから。」
するとピーチがまた話しかけて来た。
「申し訳ありません。ロックのかけ方をお伝えしておけばよかったですね。」
ターゲットをロックオンできるのね。ゲームみたいに。
「いえ、大丈夫。で、どうやれば……?」
「左手の十字レバーでカーソルを合わせてから、ズームレバーをぐっと下に押し込んでください。」
「あ、えっと。これか!」
ところで、ピーチとの会話時は自動でマイクオフになってる様だ。
ピーチ、私の考えが分かるのかな?
ズームを元に戻し、私はチャンスを伺った。
そして、時は来た!
サユリがまた柵の中に目を向けたのだ。
今だ! カーソルを目標に合わせて……ロックオン!
うん、ばっちり! 真正面にさっきの建物がある。
もっかいズーム! すると先程と同じ光景がモニターに映し出された。
サユリは久しぶりに来た母校を懐かしんでいる様だ。
サナに学校の先生の事を聞いたりしている。
私がズーム機能を色々と確かめていると、コックピットはそのままなのに周りの計器が左に素早く回転移動した。
サユリがまたサナの方を向いた様だ。
成程、ターゲットに向かってコックピットごと回転してるって訳ね!
あの赤い逆二等辺三角形がサユリの向いてる方向か。
あ、もしかしたら……。
私はハンドルを左に回してみた。
すると予想通りコックピットがそちらの方へと回転した。
「すげ~よこれ。至れり尽くせりじゃん!」
「ありがとうございます。マスター。」
何やかやで、私たちは無事、家に帰り着いた。
ふーーーーっ。おぼえる事めっちゃあるな。
考えてみれば私、まだ生後2か月足らずなんだよね……。
人間に生まれてたら超天才!
ま、何れ追い抜かれるだろうけどね……。




