577 獣から獣へ
ユメノは火柱グレンと大地カナエが偵察時に何の獣に憑くつもりなのか尋ねた。
「そんで、結局グレンとカナエはなんに憑くん?」
火柱たちはそれについて先程既に話し合っていた。
「ああ、ソウコとも相談してなぁ、結局三人ともカラスに憑くことになったわ。」
大地はカラスに憑くことの有効性を説いた。
「カラスならそこら中におるしな。それに大きさも頃合いじゃ。」
木陰シノは持って来ておいた巾着を懐から取り出した。
「丈夫とは言えんがカラスに丁度ええようこいつに紐を括りつけとくわ。」
水野はそれを見て木陰に礼を言った。
「ああ、こいつは助かるわ。ありがとう。あーっと、それとユメノ。昨日このこと、もしかして棟梁に話しなすった?」
ユメノはそのことについて言わなければならなかったことを思い出した。
「あ! そうやった。みんな悪い。昨日の夜な、話の流れでつい翁に話しちまった。」
水野はそのユメノの行動について感謝した。
「いや、話が早くなった。かえって助かったよ。」
日土フタエも胸のつかえが取れたような顔でユメノを見た。
「うちのおっ父も許してくださった。棟梁がうまく伝えてくれたみたいね。」
ユメノの祖父である棟梁、月影ムゲンは昨夜のうちに皆の父親へ伝書鳩を送り付けこのことを知らせておいてくれたようだ。
結果的にユメノが昨晩祖父に明かしたことが功を奏したということになった。
サンガ村調査隊の三人(水野ソウコ、火柱グレン、大地カナエ)は取り敢えずカラスに憑いてみた。
今までの体験から獣との距離がある程度離れていても目標さえしっかり把握しておけば獣憑きに失敗することはほぼないことが分かっていた。
木陰は器用な手捌きで巾着に紐を括り付けるとそれを三羽のカラスにしっかりと固定した。
そして三人の憑き石をその巾着に仕舞い込んだ。
三羽のカラスは上空に羽ばたくと皆の頭上で旋回した。
すると、三人の報告をそれぞれの天女が伝えてくれた。
それによれば、巾着の固定はこれで大丈夫だろうとのことだった。
木陰はそれを聞いて胸を撫で下ろした。
「ああ、よかった。飛ぶのに邪魔じゃないかしらって心配してたのよ。それにしても……これは便利ね。天女様を通じて会話ができるなんて。」
金城ミナヨはその言葉に大きく頷いた。
「うん! これなら遠くに離れていても連絡取り合えるもんね!」
木陰シノと金城ミナヨは彼女たちが次に憑く予定の犬、猫、雀の見える場所に予め用意しておいた鳥の籠を置いた。
カラスに憑いた三人は設置されたそれぞれの鳥籠の中に入ると嘴で扉を閉めた。
そしてそこから目当ての獣たちを見つめ、乗り移るよう念じた。
憑石はカラスの背中に括りつけられていたがその試みは何とか成功に終わった。
彼女たちが離れたカラスたちは鳥籠の中で騒いだが、暫くすると落ち着きを取り戻し辺りを見回すようにきょろきょろしていた。
一方、それぞれの獣に憑いた三人は自分のいた鳥籠の近くに寄って来た。
そして、再びカラスに取り憑くと嘴で器用に扉を開けて外に出た。
大地カナエだけはなかなか開けることができずガチャガチャと扉の仕掛けを突いていたが四、五回の試みで何とか開けることができた。
三匹のカラスは扉から抜け出すとそれぞれ元の身体に戻った。
水野、火柱、大地の三人はゆっくりと起き上がり掌を握ったり開いたりして無事戻ったことを確かめた。
ユメノは三人の様子を窺いながら尋ねた。
「みんな大丈夫け?」
水野は「私は大丈夫」と言いながら残りの二人を見た。
火柱はけろっとした様子で感想を述べた。
「思ったほど大変ではなかったな。結構すんなり行ったわ。」
大地はここで一つの懸念を抱いた。
「うん、そうな。まあ、カラスをちゃんと檻ん中さ留めておいたからうまく行ったんだろうけんどもな。あいつらに逃げられよった日にゃあただじゃ済むまい。サンガ村に鳥籠持ってくわけにもいかんべ?」
木陰も大地の懸念は尤もだと考えた。
「問題はそこだな。現地でカラスをどうやって縛っとくか。」
金城は鳥籠を見ながら溜息をついた。
「ああ、確かにこんな大きなもん持って行けんしなぁ……。」




