573 憑く獣を選ぼう
火柱は水野の行動力に呆れた。
「そいつぁご苦労なこって……。けど、なしてそんなにいろんなもんに憑いてみたんじゃ?」
水野ソウコはその経緯について説明した。
「初め猫に憑いた時、何となくミナモのお父上のようには行ってないような気がしてな。やはり憑く獣にも相性というものがあると感じたからじゃ。」
ユメノは興味深げな眼をして水野に尋ねた。
「して、魚以外の獣はどんな具合じゃった?」
「そうな、鳥の時などは一度地面に落ちてしもうた。ミナモのお父上のようにはいかんかったな。あとはカエルに憑いて泳ぎ回っとった時じゃな。ははは、いきなり蛇に丸呑みされてしもうたよ。」
子どもたちはその話を聞いて驚愕の声を上げた。
また、月影ユメは倉にあった古文書のことを思い出した。
「これって……確か古文書に書いてあったやつ! あれを書いたのはこの子だったってこと?」
ユメノは心配そうな顔で水野の顔を見た。
「して、大丈夫だったんか?」
水野は「ははっ」と笑いながら両手を広げて見せた。
「私はここにおるじゃろう? 勿論大丈夫さ。元々、憑いた相手が死によっても元の身体に戻るだけとアンフィトリテさんから聞いとったからね。言うても私は死ぬ前に元の身体に戻ったがね。」
皆、水野の周到さに改めて感心した。
木陰シノは皆を見回すと改めて獣憑きの修練を促した。
「となればうかうかはしてられん。私たちも早めに取り掛からねば。いろいろ試しているうちに日が暮れてしまおうぞ。」
火柱は腕を組みながら皆に尋ねた。
「だが、何に憑いたらよかんべ?」
日土フタエはそれについて自分の考えを述べた。
「うーん、もしかしてだけんど……ほら、ソウコの家は水に因んだ術に長けとるやろ? だから魚なんじゃないかな。」
水野ソウコはその考え方に同意した。
「なるほど、それは一理あるかもね。なら、そういったもんを目安に獣を選んでみたらどう?」
そこで今度は月影ユメノが皆に尋ねた。
「けど月ってのは何だべか? やっぱ、兎とかか?」
水野ソウコはユメノと兎が妙に合っていると思いクスリと笑った。
「そうだな……または夜を連想させる獣とかかもね。」
日土フタエもそのことでは困惑していた。
「私は土か? それともお日さんを連想させる獣か?」
木陰シノは早くも数種の獣を思い描いていた。
「ならば私は森に住む生き物か。それならいくらでもいるが……。」
大地カナエは何故か地中の獣を連想したようだ。
「私、土竜にでも憑いてみようかな。」
金城ミナヨも先程からいろいろと考えてはいたがどうしても自分の名に関連した獣を思い付くことができないでいた。
「私はどうしようかな。鉄に関係する獣なんていたかしら……。」
火柱グレンも同様、なかなか思い付かなかった。
「私も思い当たらんのう。火に関係する獣って……何がいる?」
水野ソウコは皆がほとほと困っているのを見て考えの幅を広げさせた。
「まあ、家系の術式は飽くまで目安に過ぎぬからね。現にミナヨのお父上だって猫を自在に動かしていたでしょう。」
金城ミナヨはその言葉を聞いて大いに納得した。
「ああ、確かに!」
月影ユメノは「あはは!」と笑いながら金城に言葉を添えた。
「猫は金運を呼び寄せるって言うからね。」
皆がその一言で笑う中、火柱は一人首を傾げた。
「え、そんなんでいいのか?」
どうやら心の中でヘスティアに尋ねているらしかった。
この問いに対してヘスティアはいい加減な返事をしたようだった。
「んな、いい加減なぁ。わたしゃ一体何に憑けばいいんじゃ!?」




