572 奇跡をすんなり受け入れる者たち
ユメノは暫く我が気を疑ったがセレーネの話を聞いていくうちに半信半疑ながらも納得したようだ。
「あ、ああ、その方がいいっぺ。いろいろ教えて賜う。」
「ご理解に感謝いたします。それで、私は一度あなたを離れ仲間と打ち合わせをいたします。この後ユメノさんのお友だちがここを訪れて来るでしょう。その時にはまたあなたのところに戻りますので。」
ユメノはこっ恥ずかしそうな顔でセレーネに打ち明けた。
「ああ、ちょうど厠にも行きたかったから……助かるわぁ。」
セレーネは「ふふっ」と笑いながらユメノにコンプライアンス的なものを伝えた。
「大丈夫ですよ。そんな時は私もあなたから離れますから。」
「そうしてけろ。ふぅ、それ聞いて安心した。んで、その仲間ってのは……。」
「ええ、他の子どもたちと一緒にいる天女たちのことです。」
「そっけぇ、みんなもおんなじような夢見てたってことなんだな。」
それから三十分としない間に少女たち全員が集合した。
始めのうちは皆相手の様子を窺っていたが、ユメノが口を開いたことでその後は怒涛のように会話が流れ始めた。
皆で昨晩の不可思議な夢について語り合ううちに天女たちにはそれぞれ個性があることが分かった。
火柱グレンの天女ヘスティアは彼女より少し年上の少女で気性はやや荒いが裏表のない性格、水野ソウコの天女アンフィトリテは明朗で聡明、木陰シノの天女フローラは落ち着いた大人の女性といった感じらしい。
また、金城ミナヨは父と同じ天女が現れたのかと思いきやアフロディーテという別の天女だったそうだ。
ミナヨ曰くアフロディーテは明るい感じの美女で正に理想の女性だったとのことだ。
日土フタエと大地カナエの夢に出た天女については月影ユメも興味を持っていた。
ここまではルンファーメンバーの苗字とナビゲーターたちは対応していたが、ここでは先ず日土が双子ではなかったし、大地に至ってはメンバーにさえ含まれていなかったからだ。
さて、それについてだが日土フタエの夢には何と二人の天女、ガイアとエオスが一緒に現れたそうだ。
ガイアはかわいらしい女性で常にニコニコしており、エオスはキリっとした目鼻立ちでその言動からもしっかり者といった感じだった。
月影ユメは彼女たちの感想がぴったり自分のナビゲーターたちに対する印象と変わらないことを確認した。
「うんうん、やっぱりみんなナビゲーターだわ! あれ? てことは……この大地カナエって子の天女は……誰?」
大地カナエの所に現れた天女はミネ、つまり金城父の夢に出て来た天女が現れたとのことだった。
ミネはその装備からして正しく女戦士といった風貌だったらしい。
月影はその名を聞いて眉を顰めた。
ミネ……やっぱり聞いたことのない名まえだな。セレーネたちの仲間ってこと? 八人目の……。
ただ、大地の話だとそのミネという天女はいろいろと忙しいようでこの話し合いの場には参加できないとのことだった。
代わりに日土の夢に出て来た二人のうちエオスの方が大地のところに来るそうだ。
その時、月影ユメノの頭の中にセレーネの声が響いた。
「ユメノさん、お待たせしました。今戻って来ました。皆さんとは話が進んでいるようですね。」
月影ユメノは周囲の様子を見て皆に尋ねた。
「みんなのところにも戻って来た? 天女。」
皆その問いに大きく頷いた。
ユメノはそれを確認すると水野ソウコに尋ねた。
「いろいろと話したいこともあるけども、先ずはサンガ村のこと話し合わなあかんね。」
水野ソウコはユメノに向かい首を縦に振った。
「うん。早速で悪いんだけどみんなにも獣憑きを試してもらいたいんよ。実際に体感することで何ができるのかを感じてもらいたいんだ。」
火柱グレンは興味深げに水野を見た。
「ソウコ、おめえもしかしてもうやってみたんか?」
水野は「ああ」と言って一つ頷いた。
「今朝言われた通りに青い石を探し出した後、早速いくつかの獣に憑いてみた。猫や犬、鳥、カエルにもね……それで一番しっくり来たのが魚だった。」




