571 久方ぶりの彼女
ユメノと見えない人との会話は続いた。
見えない人「ご説明したいところですがそれには少し時間がかかってしまいます。それより今はこの村に降りかかる災難についてお話ししたいと存じます。」
ユメノ「あ! まさかあなた、天女!?」
見えない人「いえ、あれは私の仲間です。まあけど、そういった意味では私も同類ってことでしょうか。」
月影ユメは見えない人の声や話し方を聞きながら眉を顰そめた。
ああ、もうちょっとで思い出せそうなんだけどなぁ、この声……。
えっと、えっと、誰だっけ……。
ユメノ「それで、私たちも獣に憑けるの? 金城のお父っつぁんみたいに。」
見えない人「はい、それは可能です。ただ、それができるのはあなた方、子どもたちだけです。お父上方は獣に憑くことができませんので。」
ユメノ「あれ、でも金城のお父っつぁんは? 猫に憑いとったけど。」
見えない人「彼だけは特殊な道具で獣憑きを可能にさせました。ただ、残念ながら道具の手持ちはそれ一つのみ。その効果も今晩中には消えてしまうのです。」
ユメノ「えー! じゃあ金城のお父っつぁんはもう獣に憑けないってこと?」
見えない人「はい、残念ながら。」
月影はこの話の流れから遂にその声の正体を突き止めた。
これは……セレーネ!?
ユメノ「そっか……それじゃあ私たちがやるしかないってことか……。」
セレーネ「はい。あなた方は私たちと先程言った命の根源部分が同じであるためそれが可能となるのです。」
ユメノ「みんなもこの夢見てるの?」
セレーネ「はい、私の仲間がそれぞれ夢の中で皆さんとお話ししていると思います。」
ユメノ「へーっ! そうなんだ!」
月影ユメはその話を聞いてハッと気が付いた。
ん? てことは……みんなもこれと同じ夢見てるってことかな。
なら、ロウちゃん、みんな、助けて! わけ分からないよぉ!
セレーネ「この夢は朝起きても覚えている筈ですので、獣憑きについては皆さんで話し合って決めてみては如何でしょう。」
ユメノ「うん、ソウコやみんなにちょっと聞いてみる!」
これを聞いて月影ユメは思った。
やっぱりあんたも水野ちゃん頼みなのね……。
セレーネ「分かりました。ではここでは段取りだけお伝えしておきます。先ずはそれぞれ決められた色の石を探してください。ユメノさんの場合は白です。石の大きさは手で握れるほどのもの。そして、なるべく平べったいものが良いでしょう。あまり小さすぎると失くしてしまう恐れがありますのでご注意ください。」
ユメノ「先ずはその白い石探せばええのね!」
セレーネ「はい。次にその石を対象の獣に向けながら私に願いを伝えてください。」
ユメノ「ああ、金城のお父っつぁんがやってた! 天女よ、願いを聞き入れたまえ! てな。」
セレーネ「はい、そのように声を上げていただければよろしいかと存じます。」
ユメノ「そう言や昨日来た天女さんはやっぱりミナヨ(金城)の夢ん中なの?」
セレーネ「いいえ、彼女は大地のカナエさんの所です。」
ユメノ「へー、そうなんだぁ。ま、いいんだっけど。」
月影ユメはユメノの会話を聞いていてふと思った。
何だかやっぱりこの子って私と同じみたいな気が……。
うんにゃ、私こんな喋り方しないし……いや、でも……。
ここでユメノは目を覚ました。
同時に目覚めた月影ユメは少し混乱していた。
「ん? ここは……夢から覚めた夢の中?」
眠気眼で辺りを見回すとやはりそこはユメノの寝床だった。
ユメノはバッと上半身を起こすと暫く呆然としていた。
恐らく昨晩の不可思議極まりない夢のことを思い出していたのだろう。
だが、その後はゆっくりと起き上がり昨朝同様布団を畳みだした。
月影ユメはセレーネのことを考えた。
ここが過去だとしたらセレーネは昔ここに来てたってこと?
んで、月影ってことはやっぱり私のご先祖ってことだよね……つまりセレーネは私のご先祖に会ってたってことか……。
ユメノは洗った顔を手拭いで拭うと日に照らされた庭を見ながら呟いた。
「昨日のあれは正夢……いんや、それとは違うなぁ。もう一人の私か……本当にいたみたいだったがの……。」
その時、月影にもユメノの聴覚を通してセレーネの声が聞こえて来た。
「私はここにいますよ。」
ユメノは目を丸くして宙を見上げた。
「え……本当にか!?」
「そうです。そして今私はあなたの中にいさせていただいています。ご迷惑かもしれませんがサンガ村の一件が落ち着くまでこちらの方が都合がよろしいかと思いますので。」




