567 ご先祖様らしい
月影ユメノの祖父は渋い顔をして腕を組んだ。
そこへ金城の父親が言葉を掛けた。
「ここは知恵を借りてみてはどうだろうか。ソウコもいることだし……。」
水野ソウコは今まで何度も村の難題を解決に導いていた。
また、他の六人も様々な面でアイディアを出しており、少女たちは彼らに一目置かれていたのだ。
話によれば山を三つほど越えた所にあるサンガ村が月影たちの住むシチヨウの里に戦を仕掛けようとしているとのことであった。
サンガ村もシチヨウの里同様忍を生業としており、この二村は古来より商売敵としての因縁があった。
口伝によれば時には直接対峙することもあり、その際命のやり取りも行われていたと言う。
しかしこの数十年というもの忍としての活動は殆どなく、シチヨウの里ではそのような因縁があることすら忘れられていた。
サンガ村が戦を仕掛けてくるとの情報は近隣のやや発展した市井まで取引に出向いた里の者がたまたま耳にした噂話から知り得た情報であった。
月影の祖父が万が一を考えて密偵を送り込んでみたところ、どうやら最近村の頭となった男が昔の因縁を持ち出してシチヨウを攻撃するよう仕向けているとのことだった。
昔の因縁があったこともあり村同士の交流はなかったが村人同士が個人的に物を交換したり商人を通じて物資や情報をやり取りすることはあった。
商人らの話によればサンガ村の次期棟梁には品行方正で頭の切れるタエという女性が受け継ぐと思われていた。
だが、今しがた密偵から届いた伝書によると前の棟梁が亡くなった晩にそのタエという女性は突然姿を消してしまったとのことであった。
そこへ来て前棟梁の親戚にあたるゴギャクという男が自ら新たな棟梁を名乗ったとのことだった。
また、その伝書には次のような事柄も記されていた。
そのゴギャクという男の話によればタエが前の棟梁を毒殺して逃亡したとのこと。
タエはシチヨウの里のスパイであり、これら一連の事態が村に対する宣戦布告であると村人に吹聴しているらしかった。
これに異を唱えた棟梁の親友たる年寄りの一人がその場で切り伏せられたこと。
現在、全村で武器を持ち寄り戦闘の準備を行っているということだった。
月影は頭の中でこう叫んだ。
何なのよ戦って……怖いじゃないの! 夢なら早く覚めてーっ!
だが、その儚い望みが叶うことはなかった。
呆けている月影をよそに先程から真剣な目で話を聞いていた水野ソウコが口を開いた。
「タエは恐らく人質に捕られとる……。」
水野の父はその言葉に眉を顰めた。
「おめえ、タエって女子を知っとるんか?」
「はい。タエとは山に散策に行った時偶々知り合って、その後も文を交換しとった仲で。」
親方衆は皆真剣な目で水野を見た。
「人質ってこつはまだ殺されてねってことか?」
「はい。前の棟梁はタエを次に添えるべく村に伝わる秘伝書の在処を教えとります。故にその場所を吐かない限り殺すことはできないでしょう。タエがそれをそうやすやすと口にするとは思えません。」
火柱の父が「うーむ……」と唸った。
「とは言え時間の問題じゃろうて。それこそ親を人質にでも捕られようものなら口を割るしかあるまい。」
木陰は遠い目をして呟いた。
「こんな時、月影であれば何とするか……。」
月影ユメノの父親は三年前に病を患い他界していた。
本来なら彼が棟梁を継いでいたところだったがこのような理由で未だ祖父が担っていたのだ。
金城の父は皆に尋ねた。
「サンガの衆がこちらに向かうのはいつ頃になるんだろうか。」
それには棟梁が応えた。
「二、三日中には準備を整えるとのことであった。早ければ三日の後……何せそのゴギャクとやらは」功を焦っているだろうからな。ここでこの里を落とせば村の衆もきゃつに和し逆らう者を抑えやすくなるというわけじゃろうて。」




