566 忍びの里らしい
少女たちは二人の問答に耳を傾けていた。
水野に似た少女は眉間に皺を寄せて「黄色い石……?」と呟いた。
「ふん、そんで?」
「そしたらね、たまげたごとに! 急に視界から色が失せて、その後空に飛び立ったんだと!」
「それは、自分で飛んだってこと?」
「いんや、おっ父の口ぶりじゃあ多分乗り移った鳥が慌てて飛んだみたい。けど、その後は自分で羽を動かして自在に飛ぶことができたんだと。」
火柱に似た娘は少し心配そうな表情をしながら尋ねた。
「乗り移ったってことは身体の方はどうしたんだ? お父っつぁんの身体の方はよ。」
「そうな。したらな、下の方に自分の身体が寝そべっているのが見えたんじゃと!」
「ああ、そいつは本当に鳥に憑かれとるな……。」
木陰に似た娘はその言葉を訂正した。
「いや、それを言うなら鳥に憑いた、じゃろ。」
火柱に似た娘はそれを聞いて眉を顰めたがその後納得した様に大きく頷いた。
「ほっかほっか、ほんで? おっ父っつぁんはどないしたん?」
「何や元に戻れるんか心配になりよってな、自分の身体に近づいてったらフッと元に戻っていたんじゃと。」
火柱に似た娘は嬉しそうに瞳をきらきらと輝かせた。
「天女はんの言うことは本当だったんだね!」
木陰に似た娘も納得したように頷いた。
「ああ、確かにな。あの金城のお父っつぁんがそんただ嘘つくとは思えんし……。」
金城に似た娘はやっと理解を示した木陰に向かって一つ頷いて見せた。
「うん、本当のことやったみたい。おっ父ってば後になってもっとええ事お願いしとけばよかったって後悔しとったけど……。」
この時、月影の頭の中に彼女たちの名まえが思い浮かんだ。
この子たち……火柱のグレン、それと水野のソウコ、木陰のシノ、金城のミナヨ!
そう、そして後ろで遊んでいた二人は日土のフタエと大地のカナエ!
そうだ、みんな私……と言うかこの娘の仲良しだ!
そして私の……この娘の名まえは月影のユメノ!
ここは忍の里、月影ユメノの祖父はここの棟梁だ。
とは言え現在は村全体が農業を中心とした生活になっており忍そのものの生業は殆ど行われていない。
だが、それぞれの家では先祖の術を受け継いでおり、祭りなどで忍法を披露する場があったり生活の中でもそれらの技術が積極的に取り入れられていた。
例えば火柱は火や火薬を扱い水野は水を操作する技術を、木陰は草木や農林業に関する知識、金城は鋳鉄や溶接の技術、日土とその親戚に当たる大地は土壌に関する知識と天候や気候を予測しそれに備える知恵をそれぞれ伝承していた。
そして、月影の家系は人の法、それは医療や心理学、または人とそれ以外の物を繋ぐ情報伝達方式(現代で言うサイバネティクスに近い考え)などを研究していた。
夢の中だからなのだろうか、月影はそれらの情報をすんなりと受け入れた。
まるで元から知っていたことかのように。
さて、少女たちは事の真相を確認すべく金城の父に話を聞くこととなった。
金城の父はちょうどこの月影の家に来ていた。
何でも緊急の会議だとかで座敷には七人の親方衆が勢揃いしていたのだ。
七人が廊下をぞろぞろと渡っていくと会議をしている部屋の障子は開け放しになっていた。
月影ユメノは中を覗きながら祖父の顔を見た。
「翁、ちょっといい?」
月影はその時やっと翁の意味が分かった。
ああ、翁ってお爺ちゃんのことか!
棟梁であるユメノの祖父を始め、皆いつもの柔和な顔ではなく渋い顔をしていた。
何やら凶報でもあったのだろうか……。
ユメノの祖父は孫娘の顔を見ると幾分笑みを称えながら尋ねた。
「どうした?」
ユメノたちは全員その部屋の中に入っていった。
「何かあったの?」
ユメノの問いに棟梁である祖父は「うむ……」と唸ったまま困惑した表情を見せた。
恐らく子どもたちに話してよいものか迷っていたのだろう。




