561 一言で覆される激励とは
水野はそれを聞いて先程感じた違和感の正体がうっすらと見えて来た。
「私も……ユメタンと同じだ。さっきも……あれはまるで記憶を消去されたような……!」
それを聞いて月影とモモ以外の全員も同意した。
火柱は水野の意見を聞くと目を丸くして大きく頷いた。
「それだ! 私も何かそんな気がする、ってか今考えるとそうとしか思えない!」
木陰も同じような感想を持った。
「うん、同感。私もそこだけ記憶を抜かれたっていうか……。何か得体の知れない力でも働いたんだろうか……。」
ミカンは眉を顰めながら水野に確認した。
「水野先輩、これは……。」
水野は首を傾げながらもある考えを口に出さざるを得なかった。
「うん、記憶を操作された……だが、そんなことどうやって……。」
金城はその得体の知れぬ何かにうすら寒いものを感じた。
「ちょっと待ってください。もしそれが本当なら……私たち、やばいんじゃないですか?」
その意見には皆閉口するしかなかった。
だが、月影だけはのん気だった。
「大丈夫大丈夫! これは電脳世界の話でしょう?」
金城はそんな月影の意見をあっさりと否定した。
「でも私たちの記憶が奪われたんならこれはもう現実の話ですよね。」
月影は不思議そうな顔で金城を見た。
「え……あれ? あ、そうかあ……てへっ!」
一瞬にして覆されてしまった月影の『大丈夫!』だったが水野は彼女の一言で落ち着きを取り戻した。
「ま、もしそうだとしても私たち自身に七天子の力があるわけじゃないからね。何か得体の知れない技を持つ連中がいたとしてもそうそう手を出してこないんじゃないかな。何と言っても記憶を操作できるほどの相手だからね。私たちなど眼中にないのかもしれない。実際にほら、今のところ何にもないでしょう?」
月影はうんうんと大きく頷いた。
「そう、そうよ! 私もそれが言いたかったんだよね。」
金城はそんな月影の言葉を流して水野に尋ねた。
「確かにそうかもしれませんね。それにしても記憶を操作するなんて……本当にでき得ることなんでしょうか?」
水野は月影の方を見ながら彼女に確認した。
「そのことだけど、ユメは覚えていたんだよね。」
月影は少し自慢気に言い放った。
「ええ、しっかりと!」
水野はもしやと思い月影の行動について確認した。
「もしかしたら再生したところ、あんまり見てなかったりする?」
月影はその時の状況を説明した。
「ちらっとは見えたけどみんながモニターの前に詰め寄ってたからあんまり見れなかった。」
水野は更に月影に確認した。
「音だけは全部聞いてたんだよね。」
「うん、一回目だけだけどね。」
水野は一つの推理を口にした。
「うん、二回目以降はモモと一緒にボードを取りに行ってたから……。もしかしたらこの映像内に仕掛けがあったのかもしれない……。」
金城は水野の考えに納得した。
「なるほど、その可能性はありますね。催眠とかサブリミナルとか……。」
水野は金城の不安を取り除くよう笑顔で応えた。
「はは、サブリミナルはあまり効果がないって話だけど。まあ、そんなところかな。それでモモはどうだった? やっぱり『あの人』の存在のこと忘れてたの?」
モモは腕を組みながら先程のことを思い出してみた。
「うーん、どうだったかな。 ミア(金城のこと)が言ったとき私も誰のことかなって考えてて……多分ユメ先輩が言う前に思い出してたような気もするんだけど……。」
木陰はそれを聞いてやはり水野の推理は正しいのではないかと考えた。
「もしそうだとしたらやっぱりさっきのビデオの中に小細工でもしてあったのかもしれないね。」
火柱はその言葉に眉を顰めた。
「え、それってちょっと怖いな……。何か他に呪いでもかけられちゃいないだろうね、私たち。」




