56 『光の魔法をリフレクト』は今でもちと恥ずい
夏フェスまで残すところあと十日。
私がボカロになってから初の大舞台だ。
私が体験した舞台と言えば、カラオケでみんなと盛り上がった事ぐらい。
本格的なライブは一度もできていない。
まあ、カラオケでもいい経験になったし、何と言ってもみんなのお陰で自信はついた。
私はたまに前世でのライブを思い出す。
単独ライブは結局一度もできなかったが……。
それでも3人であっちこっちのライブに参加した。
ヤヴァイのもあるって聞いてたから一応確認してから参加していたが、それでも色々あったもんだ。
ライブをする為のステージレンタル料だけでも10から20万近くする。
けど、いくつかのグループで割り勘にすることにより随分と浮くわけだ。
まあ、そんなに長くライブできる程持ち歌もなかったし、丁度いい塩梅だった。
私がいたユニットは三人構成。
私以外のメンバーはバイト仲間であるヨシエとスミレだった。
二人とも大学生で私より年下。
しかも美人だ。
更に家はお金持ちらしくバイト代はすべてアイドル活動に充てていた様だ。
多分お小遣いだけでも賄えたんだろうが、そこは彼女たちなりの考えあっての事だったのだろう。
平日の夜で雷雨に見舞われた時等は観客もガラガラで、更にライブ中突然停電なんて事もあった。
また、ビッグネームのユニットが参加した時なんかは私たちの出番が来ると皆いなくなってしまい、残った人たちも勝手に喋ってる中で歌うなんてこともあった。
まあ、そんな時であっても『一人でも見てくれる人がいれば全力でパフォーマンス!』というスローガンを掲げ、私たちはお互いを奮い立たせながら頑張って楽しんで歌った。
私は歌が好きで、手っ取り早く人の前で歌えるってんで活動していた。
で、ヨシエは作詞とダンス、スミレは作曲とミキサーでの演奏(ライブでは録音をかけっ放し)を楽しんでいた。
それと勿論二人ともアイドル歌手がやりたくて活動していた様だ。
とは言え2人とも歌だって上手い。
三人でハモるとメチャクチャいい感じになった。
まあ当然の事ながら観客の視線はルックスの良い二人に注がれた。
たまに私に対する心無い声掛けや書き込みもあったが、私はあまり気にならなかった。
ま、今に始まった事じゃないしね。
それに私一人だったらチケット代払ってまで誰も見に来てくれなかっただろう。
寧ろ二人が心を痛めてくれたことが嬉しくもあり少し申し訳なかった。
けど、私の気持ちを率直に伝えてからは二人とも気にせず前進できるようになった。
私はこのユニットの特攻隊長として頑張って行くことを決意した。
そんな中、僅かではあるがファンもついてくれた。
結成して一年経った頃には毎回10人程、私たちのファンとしてライブに来てくれる様になった。
CDなんかも買ってくれたのでいつもの赤字も少しは緩和されて来た。
ラッキーなのはファンが皆いい人たちであったこと(私の見立てで)。
まあ、年齢層は少し高めだったが。
地下アイドルは観客との距離が近い事も魅力の一つではある。
が、私たちのグループは方針の性質上ファンとの一線を画していた。
そのラインを守るガードマンこそが私なのであった!
ま、皆にはうざがられただろうけどね。
それから更に一年。
スミレの骨折やヨシエの失恋など様々な事があった。
しかし、そんな中でも私たちは頑張り続けた。
ライブには最大で40人近くのファンが詰めかけてくれる事もあった。
単独ライブまで後一歩!?
そんな時にあの事件は起こった。
後の顛末はこの通り。
現在に至る。
正直、思い出すと少々しんどい。
あの後二人とも大丈夫だったのか……。
他にも心配な事は幾つも浮かぶが今更どうしようもないことだ。
前世の記憶を持つということは、ある意味"浦島太郎の悲哀"を味わうことでもあるのだ。
何故こんなことを今になって強く思い出したのか。
ニーケの予測では明日辺りミナミちゃんの記憶が消失するらしい。
大地ミノルとその家族の気持ちを思っている内に以前のことを考えてしまったのか……。
ま、何れにせよ今は思い出に浸っている時間はない。
「さて、切り替えて行こう!」
私はスックと立ち上がり朝一の訓練をすべくレッスン部屋へと移動した。
先ずはボイストレーニングから!
私は張り切って準備運動を始めた。
ところで浦島太郎って良い事したのに最後悲劇で終わるんだよね……何故?
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【前世】
ヨシエ … 前世で地下アイドルユニットを組んでいた仲間
スミレ … 前世で地下アイドルユニットを組んでいた仲間
カナ … バイトの仲間。新人
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のオーナー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のオーナー。9歳。サユリの妹。歌が大好き




