550 仙猫の豆が欲しいところ
とは言え、それ以外のことはやはり香々美にもまったくと言っていいほど分からなかった。
ただ、この世界を作り出した、正確に言えばヴァルティンが作り出した世界を勝手に改変した『それ』がルシフェルとフィナの関係者らしいことは察しがついた。
それにしてもなぜ自分たちが巻き添えに……。
彼ら超次元の者たちからすれば(フィナはさておき)三次元だろうが百次元だろうが大した変わりはないだろう。
何故にちょっと高次元に触れただけの私たちに関わろうとして来るのか。
それは自分たちだけではなくグリミドとアーカレッドにしても言えることだ。
三次元が四次元に触れたから一体何だというのだ。
そんなことはもっと超次元に近いところで勝手にやってればいいだろう。
そのことを考える度に香々美の頭を過るのは超次元生命体の中でも恐らくその頂点辺りに位置するであろうルシフェルの三次元生命体に対するあの偏執的ともいえる憎悪だった。
彼がハジュンを通して伝えてきた話。
香々美としてはとても苦手な内容ではあったが非天がほとんど一人で対応してくれたので何とか急場を凌ぐことができた。
また、そのお陰でルシフェルの話を冷静且つ客観的に考えることができた。
彼の話に嘘偽りはなかったがそれは三次元生命体からすればということであり、今の香々美からすると微妙だ。
例えて言うなら円柱を真上から見たものを指して「これは円だ」と言ってるような感じだ。
円柱は(上底面と下底面を上下とすれば)確かに真上から見れば円に見える。
しかし、真横から見たときには長方形に見えるし斜めから見たらまた別の形に見えるのだ。
つまり、三次元の空間図形を二次元の平面としてしか捉えられない者にその一方面についてだけ説明することが偽か否かということだ。
真実(ここでは円柱であること)を告げないのはある意味嘘偽りと捉えることもできるが、それを言ってしまうと大方の会話が成り立たないことも事実なのだ。
一般的な会話などの情報伝達に於いては、例えばその人の損益に関わる内容だけは明確に伝えるべきだが、あのような思想や考え方を伝える場合は如何ともし難い。
だからこそ思想や宗教の考え方を鵜呑みにするのは危険だと考える人が多いのだろう。
真実を述べるということはそれに関するすべての前提や性質、証明を行い、またはそれらを表現する為の言語や記号についても齟齬がないよう明確に示さなければならない。
それをすべて完全に語りつくした時こそ、その言葉は真実といえよう。
で、んなことできるか! と言うわけだ。
そうゆうわけでルシフェルの話が嘘偽りかどうかという議論はこの際、扨て置くしかないのだが……。
だが、そこから伝わった憎悪はある意味偽りのない事実なのだろうと香々美は感じざるを得なかったのだ。
ならば(非天も言っていたことだが)何故、低次元の奈落にいる私たちZ組なんかにちょっかい掛けてくるわけよ。
みなまで言うな。その答えは分かっているではないか。
いやいや、待たれよ。それが三次元生命体に対する憎悪が原因だったとしても何故私たちなのか。
それは私たちが高次元に触れてしまったためなのか。
香々美はたまにこのような対話式問答法を脳内で繰り広げることがあった(因みにおかしな話方になるのは彼女なりのメリハリ……というか癖に近い)。
そうすることによって導き出した結論やデータ分析の結果から出る疑問や課題、反論を列挙して突き詰めていくのだ。
けど、まだ高々八次元だよ?
ルシフェルにとっちゃあ虫けら以下でしょうよ……。
ここで思い浮かぶのがカナタという存在だった。
言葉の表現などからして彼女は自分たちと同世代の人間といえるだろう。
しかもカナタの話だと彼女も自分たちと同じ地球連続体のβ領域で生活していたらしい。
そのカナタが何故超次元生命体にまでのぼり詰めることができたのか。
香々美はアニメで見たあれを思い出した。
重力が大きいとかめちゃくちゃハードな環境で訓練することによってスーパーなパワーアップをしちゃうやつだ。




