549 ぼっち、笑われる
次の日の朝、ヒルデリカは父親のザガンから聞いた話に耳を疑った。
「一人も……ですの!?」
ザガンは娘の不服そうな顔を見て「うーん」と唸り腕を組みながら首を傾げた。
「ああ、そうだ。一人もだ。」
昨晩、ザガンの部下がドーヴェの近親者に直接会って一人ひとり確認したところ彼女の両親含め全員が彼女の助太刀を断ったという。
しかも、彼らの言葉には一つとして嘘偽りがないことも術者によって確認が取れていた。
ヒルデリカは何が何だか分からなくなり頭を捻った。
「一体、彼女の一族というのはどうゆう……。」
ザガンは部下たちに聞いた話をそのままヒルデリカに伝えた。
「部下たちによればその親族ってのは至って普通のまじめそうな者ばかりだったという話だ。だが、彼女のこととなると全く意に介さないという。まあ、言われてみれば彼らも王族だ。で、ある以上一人のインチキな娘のことなどどうでもいいとするのは肯ける。もし、そのドーヴェとやらが真の実力者なら自分たちの利益にもなるし何とかしたいとは思うかもしれないがな。親族故にあれがインチキであることを理解しているのだろうて。まあ、結果的に誰一人こちらに向かう者はいなかったそうだ。」
嘘を見抜く術者の力は本物であることをヒルデリカは知っていた。
心臓の鼓動や発汗などから大抵の嘘は見抜いてしまうのだ。
もしかしたらドーヴェの実力があまりにも強力過ぎるのか?
だから自分たちが加勢する必要などないと……。
いや、それでもドーヴェを応援したいという気持ちは変わらない筈だ。
それにそうゆうことであれば術者もそれを見抜きここに連れて来る理由とはなろう。
私ができるだけ多くのそういった者たち、ドーヴェを親身に思う者たちを集めたいと言っているのだから彼らは必ずやそれに応じる筈なのだ。
しかし彼らは一人として連行してこなかった。
つまり、本当に彼女を心配というか大切に思っている者は一人としていないということなのだ。
ヒルデリカは一瞬呆気にとられたが、その後無性に笑いが込み上げて来てしまった。
「ふふっ……一人もいないの? え、だって……一人も……ぷっ、あっははははは! あーっはっはっはっは! あ、ごめんなさい、お父様。はあ、はあ。でも、おかしっくて。何なのよあの子は。」
ザガンもそれを見て肩を竦めた。
「ああ、まったく惨めなやつだ。親戚にも見放されているとはな。はっはっはっは!」
すべては最短の近道で進行していた。
香々美はあまりにも事がうまく進行していることに何とも言えない違和感のようなものを感じた。
「うまく行き過ぎ……。いや、行って当たり前なんだけど……何だろう、この嫌な感じは……何かあるな、こりゃ。」
次の日の朝、香々美は七次元能力を使ってその原因を探ってみた。
だが、それを探り当てることはできなかった。
そのことから、もしこの事象に何者かが介入しているとするならそれは七次元の届かない範疇にある『何か』だった。
七次元より上とはいえ魔王レベルの者(質が低いという意味)であればその存在をここまで感知できないことはない。
となれば魔王より更に上位の存在か?
もしやこの事件を起こした張本人……いや、いくら何でもカナタをも出し抜いた『それ』がこんなところまで出張ってくるものだろうか……。
ここで香々美は今まで再三彼女を悩ませてきた疑問に結局のところ行き着くのだった。
そもそも誰が何のためにこんな世界を作り出したのか。
自分たちがここに送られてくる直前、あの時の状況から張本人の『それ』はカナタの隙をついて自分たちをこの世界へと送り込んだ。
つまり『それ』はカナタと対等の超次元生命体である可能性が高い。
では、何のためにカナタではなく自分たちZ組に干渉して来たのか。
香々美はそれが何やらルシフェルと関係しているような気がしていた。
ルシフェルも超次元生命体でありながら何故か自分たちなどに接して来ていた。
そして、初めて彼と会ったときにははっきりしなかったがここへ来て一つだけ分かったことがあった。
それはフィナ・エスカがすべての中心にあるということだ。
以前、香々美はフィナがあの世界にやって来たのは(本人の意思に関わらず)元いた地球、若しくはα、β、γの地球連続体をoneたちから守るためだと思っていた。
だが高次元能力者となった今はその事件さえ大きな流れの一部であることを確信していた。
oneたち魔次元の閻魔族にしてもその大きな潮流に従っていただけなのだ。