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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
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548 父娘の絆

 そこへ都合よく(香々美からすれば予定通り)モリンガが現れた。

「よう! ウヴァルたちから聞いたぜ。当然俺も混ぜてくれるんだろうな。」

 ウヴァルというのはモリンガの友人だ。


 ノーグは何故かドーヴェと勝負する気満々のモリンガを見るとすぐにも止めに入った。

「ちょっと待ってください。今どうしようか考えているところですから。」


 モリンガはノーグの方を見ずにいつもの陽気な口調でヒルデリカを説得にかかった。

「おいおいおい、まさかこの勝負を投げ出すってんじゃあないだろうな! そんなことしたら一生笑い者だぜ? 分かってんだろう。」


 ヒルデリカたちは先程のドーヴェとモリンガとの間であった経緯いきさつを香々美の情報操作により知り得なかった。

 モリンガはそれを知ってか知らずか話を勝負する方へ持って行こうとした。


 更にはモリンガの一言でミガも考えを変えざるを得なかった。

 彼女はそもそも勝負などという面倒くさいことはしたくなかった。

 だが、確かにここで勝負を避けるのは後々何を言われるかわかったもんじゃない。

 それに自慢の暗殺部隊を公の場で活躍させれば自分の株も大いに上がるというものだ。


 そう、ここには自分たちの他に十数人の生徒たちがいて一体何事だろうかと先程から聞き耳を立てているに違いないのだ。

 ヒルデリカにしてもミガほど感情的ではないにせよドーヴェを公の場でじ伏せたいという衝動に駆られていた。

「そうね、勝負ですか。まあ、モリンガもこう言ってることですし。」


 ミガはそれを聞いて嬉しそうににやりと笑った。

 モリンガは当たり前だろうという顔で腕を組んだ。


「但し……。」

 ほら、来なすった。

「あなた一人というわけにはいかないわ。私たちは四人ですし、こうゆうことになれば多くの人たちが加勢に来てしまうでしょうからね。」


 香々美はわざと少し慌てたような口調で返答した。

 まるでヒルデリカの企みに気付いたかのように演じて見せたのだ。

「わ、私は一人で構いません。」

「いえ、一人でやると言うならこの勝負は受けられません。こちらは年長者が四人、いくら何でもそんな、弱い者いじめみたいなことはできませんから。」


 実際、弱い者いじめを楽しむつもりだってのに何と白々(しらじら)しいこと。

「それではどうしろと?」

「そうね、あなたにも仲間になってくれる人たちがいるはずです。ご家族や親戚の方々。それとご近所の方、お友だち……。そうだわ! 私が皆さんをここにお連れしましょう。勿論、あなたの為に勝負することを拒むようなら無理に連れては来ません。参加するのは希望者のみということならよろしいでしょう。」


 この勝負を拒む人ってのは、要は危害を加えてもドーヴェにとって大きな影響を与える人じゃないということだ。

 つまり、招集するのは彼女のことを本気で心配し応援しようと思ってくれる人たちだけでいいというわけだ。


 うん、やっぱ予定通り。

 香々美は内心ほくそ笑んだ。

「分かりました。それで、勝負はいつになさいますか?」


 ヒルデリカはさも楽しそうに返事をした。

「そうね、皆さんが来るまでの時間を考慮して……明日の夜ということにしましょうか。」


 香々美は思い悩んでる振りをしながら小さな声で返答した。

「明日の晩……早いですね……けど、分かりました。」


 その日の晩、ヒルデリカは父親のザガン・デモニアンテにこの事態を告げた。

 ザガンにしてみても自慢の娘が侮辱されたままとあっては気が済むわけもない。


 しかもそのドーヴェとやらは娘が塗り替えようとしていた最年少卒業という栄誉を横からさらうような真似をしてるって話ではないか。

 そんな存在は断じて認めるわけにはいかない。

「分かった。お前の好きにするがいい。しかし、王家の殺人部隊も何をやってるんだか……。仮にインチキだとしてもお前より早く卒業でき得る者をそのままにしておくとは!」


 ヒルデリカは父親に対して謙虚に振舞った。

「ありがとうございます、お父様。ではドーヴェ・アナンタの近親者についてはお任せいたします。明日の晩、一人も余すことなく学園の闘技場へ連行してください。」


 ザガンは早速その日のうちに手練てだれの部下をドーヴェの自宅やその近辺へと向かわせた。

 その中には大方のウソを見抜いてしまう術者や遠方会話術にけた者たちもいた。


 サガンの放った刺客たちは王家直属の暗殺部隊に匹敵するほどの実力を持っていた。

 つまり、この国の中でも最強と呼ばれる軍団の一つということだ。

 これでは仮にドーヴェの親族がこの理不尽な申し入れに反抗しようとも確実にねじ伏せられてしまうことだろう。

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