547 面倒くさい方に行かないようにがんばる
香々美は早速ミガに声を掛けた。
「行くんならさっさと行きましょう。拷問するんでしょう? ゴーゴー!」
ミガは自分の魂胆を見破られるなりわなわなと怒りが込み上げて来たのが見て取れるほど顔面を歪ませた。
そして次の瞬間、瞬間湯沸かし器のように瞬く間に沸騰した。
「な……何だ、何だお前はーっ!!!」
エストリエたちは何が何だか分からないままその場に硬直していた。
香々美はそんな彼女たちを横目に予定通りの言葉を告げた。
「ま、拷問しても無駄なんだけど。それでもやっぱする?」
ミガはあまりにも頭に血が上り過ぎて絶句してしまった。
「な……!」
香々美はまたも台本通りのセリフを口にした。
「そうだ、私と勝負するってのはどう? 公衆の面前で。あなたの手駒でも何でもいいように使えばいいわ。私は誰とも組まない。一人よ。」
香々美はこういう言い方をすることによって陰でこの状況を観察しているヒルデリカとノーグにも暗に勝負を挑んでいた。
これに先のモリンガが加われば四人纏めて話を進めることができる。
ミガは香々美の提案を怒鳴り声で否定した。
「ふざけんな!」
香々美はミガを通してヒルデリカに訴えた。
「あーあ、拷問は避けられないか。無駄な時間は使いたくなかったんだけどなー。分からないかなぁ……。」
すると漸くそこへヒルデリカとノーグが入って来た。
何処か別の場所でこの会話を聞いていたらしいがどうやらミガでは役不足だったらしい。
「はじめまして、ドーヴェ・アナンタさん。私はこの学園の生徒会長を任されているヒルデリカ・デモニアンテと申します。」
香々美は何事もなかったかのように挨拶を返した。
「はじめまして、生徒会長。」
そうは言いつつ彼女たちは香々美にとって嫌というほど知った顔だった。
ヒルデリカは何とか怒りを抑え込んだミガに声を掛けた。
「ミガ、何のお話をしていたの?」
興奮冷めやらぬミガはどう返していいか戸惑った。
「い、いえね。ちょっとこちらのドーヴェさんに色々と教えてあげていたところ……。」
これは先程エストリエがミガに言った台詞そのままだった。
それを聞いたヒルデリカは思わず苦笑いした。
「ここに来る途中、ちょっと聞こえてしまったんだけど。何やら勝負をなさるとか……。」
香々美はにこやかに答えた。
「はい、生徒会全員とそのお助け集団全員でかかって来てくださいな。何人でも結構ですよ。まあ、公衆の面前で私と勝負できないってんなら仕方ありませんけど。」
ここでヒルデリカの選択肢は大きく分けて二つ用意されていた。
勿論用意したのは香々美の方だ。
一つはこの勝負を受けないこと。
もう一つはこの勝負を受けること。
但し、勝負を受ける際には一つ条件があった。
それはドーヴェの親戚全員と友人をすべてこの勝負に参加させるというものだ。
つまりはドーヴェの前で全員をいたぶった上で殺害してやろうという思惑だ。
拷問はその後でもよい。
香々美は内心苦笑いした。
流石三次元生命体だけあってこうゆうところは確定しないものだ。
だが、四次元の目を以ってすれば展開先の候補はすべて知覚できる。
話はとても単純な為、五次元以上の能力は出番がなかった。
と言うよりはできるだけ高次元能力の使用は抑えておきたかった。
それはこの世界に罷り通る謎ルールに引っ掛からないようにしなければならないからだ。
ヒルデリカは落ち着いた調子で話してはいたが腸は煮えくり返っていた。
「さて、どうしたものかしらね……。」
だが、ドーヴェの姿に注目すると自分たちの方に分があるような錯覚に陥った。
それほどにドーヴェの身体は細く儚げで吹けば飛んでしまいそうなくらい貧弱に見えたのだ。




