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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
541/625

541 当たらない……!

 モリンガはゆっくりと身体を起こしながらキッとドーヴェを睨みつけた。

「は、マジで言ってんの?」


 香々美はサーベルをシュッと一振りした。

「そんな素振り用の剣じゃ私を殺せないわよ。あそこにある本物の剣と交換しなさいよ。ほら、さっさとして!」


 モリンガは香々美の挑発にイライラをつのらせた。

「ふん、調子こきやがって。マジで殺す……!」


 モリンガは半身を起き上がらせたその状態から飛び跳ね地に両足を付けると素早い踏み込みで彼女の両足をその木刀でぎ払おうとした。

 だが、自信満々の一振りは彼女のつたないジャンプでかわされてしまった。

 香々美は彼の剣が何処どこを通過しそれをどの様に避けるべきかすべて分かっていたのだ。


 そのジャンプは特に高いわけでもなく、むしおない年の女子の平均よりも低かった。

 モリンガの剣筋と彼女の宙に浮いた足先の距離も1㎝強といったところだった。


 モリンガは一瞬何が起こったのかわからなかったが、鍛え上げた自分の剣技がかわされてしまったことに動揺した。

「ほう、やるな……流石さすがは優等生……。」


 モリンガは怒りに打ち震えていたが香々美はそれをさらに逆撫さかなでした。

「まさか、今の本気だった? ……笑える。」


 モリンガの怒りは頂点に達した。

「この……‼」


 モリンガは目にも止まらぬ連撃を幾度も放った。

 だが、そのことごとくがドーヴェにかわされてしまった。


 当然のことながらそれはすべて香々美の計算通りだった。

 掛かる火の粉を追い払う分にはいくら能力スキルを使おうがこのミッション『仲間づくり』に支障はないのだ。


 香々美の身体は精量術により彼女の体力をできるだけ減らさないようにしながら自動的にモリンガの剣をかわしていたのだ。

 剣の軌道を変えることもできたがそれをやってしまうと剣捌けんさばきを認めたとモリンガに捉えられてしまうからだ。


 分かっていた通り、モリンガは三連撃、十連撃、百連撃となかなかの技を繰り出したがそれは一つとしてドーヴェ(香々美)の身体に当たることはなかった。

 それぞれの連撃には御大層な名まえまで付いていたがそれもただ虚しかった。


 勿論、ここまで来ると肉体的にはかわしきれるものではなかったので途中からは情報操作でしのぐこととなった。

 モリンガが把握しているドーヴェの位置を少しずつ横にずらし最終的に彼は彼女の3メートルも右側を攻撃することとなったのだ。


 それでもその猛攻はすさまじく香々美は弾けた小石や風圧を嫌がった。

「服が汚れたらどうしてくれるのよ!」


 香々美としてはすべての剣筋がすべて見えており、時間経過に合わせて(精量によって)身体が勝手に動いてくれるわけだ。

 しかも視覚情報を四次元的に捉えていた為すべての動作が止まって見えるのだった。


 香々美は欠伸あくびをしながら彼の様子を見ていた。

 能力を四次元までに留めていた為どこまでこれを続けるか幾つかの選択肢が発生してしまったからだ。

 どこまでやったら彼を程よくへこませることができるのか、その時を見計らっていたのだ。


 モリンガの表情と剣の動きから香々美は心の中でつぶやいた。

 眠いけど剣風がちょっと気持ちいいかも……けど、そろそろかな。


 香々美が感じた通りモリンガは最後の一撃、必殺の一撃を彼女に繰り出してやろうと心に決めていた。

 その必殺の一撃とは百連撃を四度繰り返した後、息を切らせてへたれ込んだモリンガに「大丈夫?」などといっておずおずと近付いて来たところへの不意を突いた渾身の最大火力技だった。


 そして、彼の最後の一撃をドーヴェが何事もなかったかのようにスッとかわした時点でその火はふっつりと消え去った。

 こんな小さい少女にこんな意表を突く卑劣ひれつな一撃さえも入れることができなかったことでモリンガの心は完全に折れたのだ。

 この過程及び状態は香々美の予測したものと寸分たがうことはなかった。


 モリンガは息を整えると彼女に土下座して謝った。

「数々のご無礼、申し訳ありませんでした。私の負けです。参りました。」


 今回は魔素の影響をほとんど受けていなかったこともあり、モリンガは素直な態度で敗北を認めた。

 それを見て香々美も安心した。分かっていたこととはいえ……。

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