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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
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539 未完成世界の墓場

 ヒルデリカたちもそれについては承知しており、普段はえてこの話に触れることはなかったが内心では覚悟していた。

 それが自分たちのして来たことに対するケジメであり、魔王討伐がなかったらむしろ今すぐにでも罰して欲しいと考えていたくらいであった。


 ああ、この人たちがもうちょっと小狡こずるい人間だったらどんなにか気が楽だっただろう。

 香々美はoneワンの声を聞く度にそういった気持ちを思い起こさせられたのだ。


 ただ、この閉塞へいそくされた仮の空間にける粛清しゅくせい如何いかなるものか。

 忘れ去られたこの虚数きょすう世界での出来事がヒルデリカたちの人元にどのような影響を与えるのか。

 願わくば皆の悪行がこの切り離された世界でのみの不幸であることを香々美はひそかに期待するしかなかった。


 この世界は未知の超次元生命体が介入し創作された世界。

 香々美は二度目の人生でそれを知るに至った。


 元々はヴァルティンが作った訓練用の仮想空間だったのだが、ここはそれを改変した閉鎖空間となっていた。

 閉鎖空間故に作成者以外誰人だれびともそのルールに介入することはかなわなかった。


 そして、この世界は八次元以下にいて実際に在り得た世界をモデルとしていた。

 そこに(超次元生命体としての)カナタたちが存在しないという要素が織り込まれていたのだ。


 カナタたちは超次元生命体になるまでに幾つもの試練を乗り越えて来た。

 ここはそう、それらの試練の中で最も死亡率が高いとされた戦闘で彼女たちが破れてしまった世界であった。

 死亡率が高いと言ってもその確率はとても小さく一般的に『ゼロとは言えない』といったレベルではあったのだが。


 それでもその実現しなかった世界は虚数時空の谷間にこびり付き、大変ゆっくりとした時間ときの流れの中に封じ込められていた。

 そして、どうやらこの世界を改変した未知の超次元生命体によってその世界のカナタたちが死んでしまったという要素をこの世界に合成されてしまったらしいのだ。


 さて、話を戻そう。

 つまり香々美は前回、七度目の人生で上のようなことを試験的に行っていたのだ。


 だが、この試みは彼女が現在八度目の人生を送っていることからも分かるように、残念な結果となってしまった。

 そう、この計画は失敗に終わったのだ。


 元生徒会の四人をはじめとする王族領域の関係者全員の記憶操作を終えたドーヴェ(香々美)は魔素から解放された彼らを従えて魔王を討伐するまでにいたった。

 ここからは記憶操作のプログラム領域からヒルデリカたち対象者を解放した現実世界の戦いとなった。


 生徒会の四人を含め仲間となった人々には頭の中で映像を見せることによって皆に真実を知ってもらったと伝えた。

 実のところ映像などという生易しいものではなかったのだが(記憶操作)……。


 現実に引き戻された人々はドーヴェが来たその日からまったく時が経過していないことに驚いた。

 だが、ドーヴェの言い訳についてとやかく言う者は一人もいなかった。

 それよりむしろ魔素の脅威を教えてもらったことに皆が感謝した。


 そして準備は整い、いよいよ魔王討伐を決行する日がやって来た!

 作戦は生徒会率いる討伐隊が行く手を阻む魔物たちを蹴散らして道を切り開き、香々美が魔王と直接対峙するといったものだった。

 香々美一人が魔王に対峙することになったのは通常の人間では七次元の能力スキルを使った戦いなど感ずることすらできないからだ。


 結果、七次元レベルで魔王を討伐した香々美はまたもスタート地点に戻されてしまったというわけだ。

 まあ、香々美としては当然と言える結果ではあったのだが。


 それでもこの実験をえて試みたのはそこで何かこの世界のルールのようなものが新たに発見できるかもしれないと思ったからだ。

 勿論もちろんこの時点(八度目の人生のスタート地点)では能力スキルをあと一段階、つまり八次元にまで高められれば魔王の本体を討伐できるという確信が持てたのでそちらの方が喜ばしかったのだが。


 しかし、八次元能力スキルが修得不可能と分かった以上、この実験は当たりだった。

 香々美はこのミッション『仲間づくり』の大まかなルールを掴むことができたからだ。


 このルールは仲間たちがその人元とわされる情報パラメーターの数値から判断されるものだった。

 具体的に言えば、一つに香々美がお膳立てし過ぎないこと。

 一つに(香々美が)人間的なかかわりを避けようとしないこと。


 細かなところでは他にも幾つかあったが香々美が最も注目したのがこの二点だった。

 要は二つとも香々美がやりたくなかった事柄ということだ。

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