538 忍び寄る因果律
香々美は五次元にレベルアップした時点でビーマから伝え聞いていた『大きな災厄』がoneら魔次元の閻魔族であったことに気が付いた。
そして、能力が六次元となった段階でその力はoneをも超越していたのであった。
但し、リム(リームズ・ボイスト)については彼女がoneと同じ六次元(正確には六魔次元)生命体であったにも拘わらず八次元の装具を身に着けていた為にその力は五分であった。
因みにここで言う魔次元とは0次元(つまりは点)の内側に広がる空間みたいなものだ。
この世界に於けるoneはこの地球を中心とした地球連続体(元の世界のα、β、γ領域)の粛清を企んでいた。
その起因となったのは元の世界ではGmUだったがこちらでは精量と魔素の開発によるものだった。
また、地球連続体には連続するが故に共時性と思しき性質が働いていた。
その為、多くの並行する地球で精量や魔素が発見されていったのだ。
oneたちからすればそれはとても都合がよかった。
魔素が開発されたことによって人々は途轍もなく大きな悪業を背負うことになったからだ。
例えばヒルデリカたち生徒会の者たちにしてもご多分に漏れることはなかった。
いくら善行を積もうと人々の為に身命を捧げようと、それまでにやってしまった事実を帳消しにはできないのだ。
香々美がヒルデリカたちと関わり合いになりたがらなかったのはそういった理由が大きかった。
つまり、生徒会メンバーやその他香々美を応援してくれるようになった人々の協力を得て魔王を討伐したとしても、その後に待っているのは閻魔族による彼らへの粛清なのだ。
それは香々美でもどうにかできるものではなかった。
閻魔族の粛清は介入すべきではない自然の摂理であって、彼らは単にその因果応報の法則に則って自分たちの役目を果たしているだけなのだから。
因みに香々美がoneたちを追い払ったことで情報爆発の危険性はなかったのだろうか。
実は作為的なこの世界に於いて魔王の次元を超えることは困難であった。
故に香々美がいなかったとしても、然しものリムでさえこの世界に手を出すことはできなかったのだ。
さて、香々美としては閻魔族が遵守しているこの法則をoneたちが反論できない程度には変換できたかもしれない。
どんな感じかと言えば、例えば単純な一対一対応『目には目を、歯には歯を』の法則が用いられたとする。
その際、言葉そのまま目に危害を加えた者がいたとしよう。
さて、その方法が使用した本人しか知り得ない未知の薬品であった場合はどうか。
但しこれは人間間の話として。
何故ならoneたちであればそんな小細工簡単に見透かしてしまうからだ。
すると先ずは誰がやったのか、何故被害者の目に支障が生まれたのかなど様々な事柄について精査するところから始めなければならない。
それを判定する人々がどんなに頑張ったところでその結論はいつになることやら分かりゃしない。
この場合時効がないとしても罰を受けるべき者の寿命がタイムリミットとなる。
犯人は絶対に分かるわけがないと確信しているその殺害方法を胸に秘めたままこの世を去ってしまうこともあるのだ。
もっと簡単な話だと、命令によって目に危害を加えた者Aがあったとする。
その命令を下した者Bやそれを唆した者C、知っていて黙っていた者Dの罪はどう判定すべきなのか。
また、脅されて命令に従った者Aについてもそういった事情を考慮しなければならないのかもしれない。
その判定は人によって千差万別であり、また同一人物でもその時々で変化が生じるかもしれない。
結局のところ判決はより複雑になり、そう単純には行かなくなってしまうだろう。
このような様々な要素を織り交ぜた場合、因果律のような単純明解な法則がどう作用してくるのか。
死にたくないと思っている者を殺害した場合と殺してほしいと思っている者を殺害した場合。
同じ刑を処してもそれを楽だと感じる者ときついと感じる者。
勿論、閻魔族の六次元的『見方』による判決はそのような些末な要素さえもすべて加味されており、そのシステムさえ理解できれば(三次元世界の)誰しもが納得のいくものだ。
だが、どんな法則にも通用する範囲というものが存在しており、その上の次元をゆく香々美であれば上のような問題提起と矛盾点を突いた背理法によってこの法則を覆すことは可能なのだ。
だが、それをやるべきでないことは彼女が一番よく理解していた。
ズルをしたところでその分だけ更に上の次元に皺寄せが来るだけなのだ。




