537 魔物と閻魔
情報を扱うにはそれなりの知識や見識というものが必要だ。
香々美は空き時間を使って四人に数学をはじめとする科学の知識を伝えた。
ミガは少しばかり理解が遅かったが、それでも香々美が元の世界で通っていた学校の生徒並みの能力は持ち合わせていた。
因みに彼女が通っていた学校は研究員養成学校中等部。
GmUの元に世界中から集められたエリートたちだったので決してミガのレベルが低いというわけではなかった。
だが、他の三人の出来があまりにも優秀過ぎたので通常の学校では一番になれるようなミガでも見劣りしてしまうのだ。
それでもZ組の生徒たちとは雲泥の差があり、しかも科学系に関してはスタートラインが小学校レベルかそれ以下だった為、香々美はその教え方について頭を抱えることとなった。
ところで香々美たちが掃討している魔物についてだがそれはどういった存在なのか。
基本この世界の魔物というのは魔術を扱う動物たちのことだ。
元々精量というは人間だけではなく動物にも干渉する性質を持っていた。
その為、動物の中にはそれを器用に扱うものも少なくはなかったのだ。
しかし、魔素の出現によりその力は増幅され、それに曝された動物たちの性質は獰猛になってしまった。
香々美たちはそういった魔物と呼ばれる動物たちを駆除して回っていたのだ。
勿論、香々美にはそんなことをする必要はなかったのだが生徒会メンバーのレベル上げには持って来いだったのだ。
生徒会メンバーらを成長させるとなるとそれなりの時間もかかってしまう。
すると魔物の被害を無視できなくなるだろうことからも魔物退治によるレベル上げは必須と言えた。
香々美としてはこの世界の残虐な者たちなどどうなろうと知ったことではなかった。
だが、人非人と呼ばれる者たちのように魔力を持たない、つまりは魔素の影響が少ないと思われる人間たちもこの世界には多数存在する。
その人たちの被害を最小限に留めなければならないという意味で必須と考えたのだ。
ただ、香々美がすべての魔物を消滅するとこの世界のバランスが高次元的に歪んでしまうのでそれだけは避けなければならなかった。
例えば魔物の中にはとんでもない能力持ちや知能の高いものまで存在していた。
そんなレベルの高い魔物であっても四次元以上の能力を会得した香々美であれば初歩の情報操作だけで楽々と封じ込めることはできた。
だが、それではメンバーを能力アップすることはできない。
小さな意味で言えば『歪み』とはそういったこと。
だから香々美は一切手を出さず彼らの成長に合わせて魔物を宛がうようにしていたのだ。
その甲斐あってか半年後にはかなりの成果が出せるようになっていた。
彼らの難点と言えば精量の数が控えめということくらいだった。
これはメンバーが過去、魔素に触れていたことが原因であった。
精量の質は最強レベルであったにも拘らずなかなか集まらないのだ。
その中にあってモリンガだけは他の三人より多くの精量に恵まれた。
これは彼があまり魔術を使用しなかったことや重力を扱う精量自体の絶対数が他の三つの力を扱う精量より多かったからだ。
ヒルデリカはそれをすべて承知した上で地道に修練を積み重ね、人々の為に尽力することを続けた。
そんな彼女に精量も少しずつ理解を示し始めたのか、僅かずつだが新たな精量も集まるようになってきた。
香々美はそんな彼女たちを見て何ともやり切れない気持ちになった。
そんな彼女の耳にある者の声が届いた。
『やあ、どうだい? 香々美ちゃん。順調に行ってるかい?』
声の主は閻魔族のoneであった。
六度目の人生で能力を六次元に引き上げた際彼と知り合ってからというもの偶に会話をしていた。
とは言っても香々美から話し掛けることは殆どなく、向こうから一方的に声を掛けて来るのだが。
香々美はいつものように仏頂面でその声に応えた。
『……何よ。』
『いやはや、冷たいね。ははは……。』
『今、プログラム作ってんだから邪魔しないで。』
『ほう、記憶操作の……これまた凄まじい確率計算群だね。しかも仮想空間に彼女たちのダミーまで作成しちゃって。その意向や行動原理まで分析してるとはね。ここまで来ると……めちゃくちゃ面倒くさそうだね……。』




