532 魔を極めざる者、魔王に非ず
この世界とZ組の関係性を知り香々美は確信した。
ここは皆で乗り越える世界、そして自分たちを成長させるための世界であることに変わりはないと。
それはカナタたちの意志でありその為に作られたこの世界のシステムは辛うじて生き続けていたのだ。
Z組の皆を包み隠す白い靄のようなものは時が来るまでお互いを認知させない為に仕組まれたベールなのだ。
因みに当のヴァルティンやビーマ、ヨルイチについても一応探索はしてみたがやはり姿を見せなかった。
九次元生命体のビーマとヨルイチは兎も角、八次元生命体のヴァルティンであれば見つかるかもと思っていたのだがやはり見つけることはできなかった。
恐らくこの三人はカナタによって自分たちの周りに存在したに過ぎず、カナタのいないこの世界では皆それぞれ別の場所で生活を営んでいるのだろう。
つまり、香々美の検索範囲では到底及ばない彼岸の先にいるということだ。
八次元の壁を悟った香々美は今回、つまり八度目の人生で自分がやるべきことを考えた。
とは言っても実はその結論は考えるべくもなく既に出ていた。
ただ、その事実を受け付けたくなかったが為に彼女は考えたのだ。
「やはり、やるしかないのか……トホホ……。」
香々美に与えられたその役割とは仲間を見つけ出し増やしていくことだった。
仲間と言ってもZ組のことではなく彼女の周囲にいる王族たちの中からということだ。
香々美は勿論その理由もシステムも理解していたし、その解決法も分かっていた。
それでも彼女が渋い顔をするのは単にそういった輩と接触したくなかったからだ。
この王族という領域には香々美が最も嫌悪する極悪非道で残忍な者ばかりが集まっていた。
そして、地位が上であるほどその残虐性は際立っていた。
香々美は七度の人生で嫌というほど彼らのそういった面を知ってしまったのだ。
特に一度目の人生は酷かった。
香々美が転生して来たドーヴェ・アナンタはその時正に大ピンチに直面していた。
そして、そのピンチとは別の理由で死の淵に立たされていた。
ドーヴェは生徒会の策謀により捕縛され魔力調査との名目で今後毎日拷問に掛けられることとなっていた。
それはヒルデリカたちの仕向けた罠によるものだった。
彼女たちの心の内に孕んでいた残虐性がドーヴェに対する嫉妬や恐怖を起因として牙を剥き彼女を襲ったのだ。
ドーヴェの能力はその時既に彼女たちのそれらを大きく上回っていたが、親族を人質にされては逆らうこともできなかった。
今のドーヴェ(香々美)であれば難無く躱せてしまうちゃちな策謀だ。
だが、香々美が転生して来る前のドーヴェはその能力をまだ高次元と呼べるものにまで高めていなかったのだ。
ドーヴェの親族は先にもあったように魔力を持たなかった。
彼らは精霊術を用いてそれを魔力と偽っていたのだ。
それをヒルデリカたちに知られてしまった。
勿論、生徒会のメンバーだけでは到底この事実に辿り着くことはできなかっただろう。
しかし、ヒルデリカたちは何故かこのことを知っており、そこを突かれてしまったのだ。
後に分かることだが、これはヴァーレフォールという教師がその事実をヒルデリカらに伝えていたのだ。
そして何を隠そう、この教師こそ魔王のこの世界における仮の姿だった。
生徒会の四人はこのヴァーレフォールからその情報と共に魔道具も授かっていた。
この魔道具は期間限定ではあるがドーヴェの精量を寄せ付けないものだった。
更にこのヴァーレフォールは生徒会の四人に自分が魔王であることを明かし、ドーヴェがこの国に災いを為すであろうと告げていた。
魔王からすればそれは事実であり放って置くわけにもいかない事案だったろう。
何せドーヴェは自分自身を討伐するほどの力を持ち得る可能性を秘めていたのだから。
ヴァーレフォールの話はヒルデリカたちがこれから行おうとする行為に正当性を持たせた。
ヒルデリカたちはこの大義名分のもとで憎きドーヴェを心置きなく制裁することができるのだ。
勿論最初から遠慮などするつもりもなかったが小さな子どもを相手に必死過ぎるのもヒルデリカとしては癪だった為、ということだ。
彼女は嬉々としてドーヴェを虐待する為の計画を綿密に練った。
さて、ヴァーレフォールによればドーヴェには肉体的な苦痛を与えても精霊の技でその情報が大脳に伝わる前に自動的にキャンセルされてしまう。
従って、拷問の内容は主に心理的なものが多用されることとなった。




