53 サナのお家
私が周りのかっこいい機器に圧倒されてキョロキョロしていると、急に音声が語り出した。
「こんにちは。マスター。」
まさか山本みたいなんじゃ……。
「こここ、こんにちは……。」
「今あなたが搭乗しているのは先程のピンクと白の物体です。」
ああ、そうだった。
てことは……私、小さくなっちゃった?
「マスター。宜しければ操作を手動から自動に切り替えますか?」
「あ、はい。お願いします。」
「わかりました。エンジン起動。モニターに外景が映し出されます。」
すると大きな、と言うか360度全てが見渡せる、まるで展望台みたいなモニターが外景を映し出した。
目の前には巨大なサナが目を大きく見開いてこちらを覗き込んでいる。
「お~い、フィナ~。お母さん、今何か音がしたよ。フィーンて。」
私は声を掛けた。
「サナちゃん!」
あれ? 聞こえてないのかなと思うや否や音声が話しかけて来た。
「通常マイクをオンにしました。」
あ、そうゆう事ね。
「お~い。サナちゃ~ん! 聞こえますか~!」
サナが満面の笑顔で答えた。
「あ、聞こえた。フィナ大丈夫?」
「は~い。問題ありませんよ~。」
すると画面左側からお母さんがホッとしたように囁いた。
「どうやら成功したみたいね。」
続いてお父さんが心配そうな顔で覗き込んで来た。。
「一応元に戻れるか試しておいた方がいいんじゃないか。」
確かに! ずっとこの中ってのも流石にね……。
サナは「えっ?」という顔をしてから言った。
「じゃあ、ちょっと散歩してからじゃダメ?」
お父さんは私に向かって聞いて来た。
「フィナ、少しサナの頭に乗って散歩してみるか?」
お母さんはそれを窘めるように意見した。
「え、大丈夫なの? まだ、慣れてないでしょうに。」
私は考えた。
そうだな~。ちょっと試運転してからでもいいかもね。
楽しそうだし!
「お母さん。私は大丈夫ですよ。」
お母さんは心配そうな顔をした。
「そう。まあフィナさんがそう言うなら、それでもいいんだけど。」
サナは薄い帽子状の布を頭にかぶり、その上に私を置いた。
「これ、フィナ専用の帽子。蟹江さんがくれたの。」
お父さんは言った。
「取り敢えず今日は家の中だけにしといたら?」
お母さんも言った。
「そうね。そうしなさいサナ。3時には叔父さんも迎えに来るし。」
そう、今日はご両親が日本を立つ日だ。
サナは「う~ん」と少し考えてから私に言った。
「じゃあ、今日は家だけね。外出たい? フィナ。」
やっぱ外に行きたがってるよ、この子!
私は両親の意見を汲んだ。
「まだ操作に慣れてないから、ちょっと危険かも。家の中で慣れてからがいいな。」
「うん。わかった。」
サナは一瞬残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「じゃあ、行って来るね! フィナとお散歩、はじめてだ!」
車に轢かれるとか、ガラス割っちゃうとか言わないでおいた方が無難だよね。
何せ外の世界がどんなだか見当がつかないんだから……。
私はサナの頭に乗っかって、家の中を回った。
ぱっと見の感想は……広い! 何だこのお屋敷は!
家は3階建てになっており、2畳で1坪だから……家内だけでも50坪はあるんじゃないだろうか。
1階ではお手伝いさんらしき女性がせっせと掃除をしていた。
還暦位だろうか。優しそうなそのお手伝いさんはサナの存在に気が付くと笑顔で言った。
「サナちゃん、な~に? その帽子。」
「えっへっへ~。カッコいいでしょ。」
お手伝いさんは目を細めながら近づいて来た。
「何か珍しい帽子ね。何なのそれ。」
「中にねフィナが入ってんの。」
お手伝いさんは一瞬ぽかんとした後サナに確かめた。
「ああ、いつも話してる……ボカ……何でしたっけ。」
「ボカロだよお。」
「あ、そのボカロのフィナさんがその中に。」
「うん、そうだよ。フィナ、こちらお手伝いさんのクレハさんだよ。」
私はクレハさんに挨拶した。
「こんにちは、はじめまして。フィナ・エスカと申します。こんな所からで申し訳ございません。」
クレハさんは驚いている様子だった。
「あらまあらま。どうしましょう。本当に喋ってるわ……。」
サナは呆然としているクレハさんを見てニッコリと微笑んだ。
「大丈夫だよ。サナは人間みたいなもんなんだから。」
クレハさんは少し顔を引き攣らせながらも笑いながら言った。
「あらま、そうなの。ホホホホ。びっくりしちゃって。ごめんなさい。フィナさんですね。お初にお目にかかります。三好クレハと申します。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。」
クレハさん、ずっと家にいらっしゃったんですね。まったく気付かなかった……。
その後、私たちは1階から3階まで一通り見て回った。
普通の家ならすぐに終わりそうだが、この家の場合ちょっとしたレクリエーションだ。
何だかんだで30分以上かかってしまった。
見学が終わってサナの部屋に戻ると、もう叔父さんが来ていた。
「やあ、フィナ君小さくなっちゃって。」
「お久しぶりです。叔父様。」
サナも挨拶した。
「叔父さんこんにちは。今フィナと一緒にお家回って来た所。」
叔父さんはニコニコしながらサナに言った。
「そうかそうか。それはご苦労であった。」
サナは甘えるように叫んだ。
「ご苦労じゃないよ! 楽しいんだよ! エヘヘヘ。」
叔父さんは自分の後頭部に手を廻しながら言った。
「そうか。楽しかったんだね。はっはっは。」
その後、サユリが帰宅すると本田家の四人と叔父さんは連れ立って空港へと向かった。
帰り際にご両親から個別に連絡してもいいか尋ねられた。
「実はちょっと頼みたい事があってね、宇宙ステーションに着いたらフィナさんに直接連絡してもいいかしら。」
「はい。構いませんよ。これが連絡先です。」
私は連絡先を二人のスマホに送信した。
「ありがとうね。じゃあまた!」
「それでは道中お気をつけて。行ってらっしゃいませ!」
それにしてもあんだけキョロキョロしてたのに、よく3D酔いしなかったな。
前世なら10分と持たなかっただろうに……。
【人物紹介】
私 … 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のオーナー】
本田サユリ … 私のオーナー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のオーナー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【本田家・親族】
本田トオル … 国際宇宙ステーションの研究者
本田サエコ … 国際宇宙ステーションの研究者
三好クレハ … 本田家の家政婦
本田ススム … サナとサユリの叔父。トオルの弟
中原トキノスケ … 母方の祖父。本田家の近所に住んでいる
中原トワ … 母方の祖母。本田家の近所に住んでいる
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … オーナーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … オーナーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … オーナーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … オーナーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
ナミエ… 正式名称C73EHT-R。AIポリスの特殊捜査隊隊長。新米ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手




