526 生徒会執行部、集まる
暫くするとそこに生徒会役員のミガ、モリンガ、ノーグの三人が入って来た。
「ごきげんよう、生徒会長。」
やや仰々しい態度で挨拶を交わして来たのは副会長のミガだ。
彼女の家系は主に王族の政治関係に携わっていた。
ヒルデリカは表情を柔和に調整すると皆の方へ振り返り挨拶を返した。
「ごきげんよう、みなさん。」
書記のモリンガは四人の中で唯一の男だ。
彼の家系は王族の騎士や武官が多く、彼もまたその才に恵まれていた。
「よ、ヒルデリカ。何か顔色わりいぞ。ちゃんと飯食ってるか?」
会計のノーグは冷ややかな目付きでモリンガを窘めた。
「モリンガさん、女性に向かって不躾ですよ。もっと言い方というものを考えてください。」
ノーグの家系は王族のブレインとして学者や指南役を多く輩出していた。
そして、彼女もまた相当な頭脳の持ち主だった。
ヒルデリカと言う存在がいなければ学年首位の座は彼女のものであっただろう。
ヒルデリカは三人に向かってニコリと微笑んだ。
「いいのよ、ノーグ。確かに私、今少しばかり考え事をしていたものだから。」
ノーグは単刀直入に尋ねた。
「例の転入生のことですか?」
ヒルデリカは彼女の機械的な口調にやや苦笑いしながら答えた。
「ええ……まあね。」
ミガは「ふん」と鼻で笑いながら口をはさんだ。
「あんなの、ただのガリ勉じゃなくて?」
ノーグはその言葉を無表情で否定した。
「そうでもないらしいですよ。噂によればあり得ないほどの学力で先生方にすら匹敵する……若しくはそれ以上と。」
モリンガはそれを聞いてわざとらしく驚きの声を上げた。
「ほう! そいつはすげえな。確か……なんてったけか、名まえ名まえ……。」
ノーグはそれにも愛想なく答えた。
「ドーヴェ・アナンタ。年齢は十一歳とのことです。」
モリンガは今度は本当に驚いたようで一層大きな声を上げた。
「ああ、そうそう。ドーヴェだドーヴェ! え、何だって? まだ十一ってか! そんで高三に編入して来たって……マジか!」
ミガは「へえ、そうなんだ……」と呟くと気を取り直すかのように笑い声をあげた。
「フフ、それにしても……それだけの才能をひけらかしておいてよく無事でいられたわね。ねえ、ヒルデリカ。」
ヒルデリカはミガがこれらの情報をすでに掴んでいたことを知っていた。
「ええ、そうね。けど、それだけの力があるからこそ未だ健在でいられるんじゃないかしら。」
ミガはせせら笑うようにその言葉について確認した。
「すべてを躱して来たってこと? けどまだ十一歳よ?」
この国では必要以上の、つまり王家を脅かすような存在は始末されてしまうことがままあった。
この王族の階級には王家直属の暗殺集団が幾つも潜んでおり、そのような者に直接手を下していたのだ。
王族のレベルともなるとその力は尋常でなく、中にはこの国を滅ぼしかねないほどの力を持つ者が誕生することもあったからだ。
それは王家や王族にとって都合の悪い存在であり、早急に始末する必要があった。
生徒会の四人はそれだけの才を持った者が未だ始末されずにいることを不思議に感じていた。
いくら優秀だとは言え十一歳の子どもが玄人の暗殺集団の襲撃をそうやすやすと掻い潜れるわけがないからだ。
しかも、襲われるとしたらもっと若い時期。
彼女がその才を発揮し出した頃からつけ狙われていた筈だ。
となると、まだ五、六歳の頃から彼女は暗殺を仕掛けられていたと考えられる。
一体、どうやったらそのような幼い少女が暗殺者たちの攻撃を捌けたというのだろう。




