525 別の形で人元に迫る
非天は仮説を立ててみた。
もし精量が微生物のようなものを進化させた生命体だったとしたらどうか。
その微生物が元来何らかの形で人間と人元との情報のやり取りを感知できる機能を有していたなら。
そして、そこで得た情報からその人間が自分たちに対して脅威となるかどうかを判断できるとしたら。
これにはこの微生物が元々は人間に害を為す性質を持ち合わせていたとして、といった前提が必要かもしれないが。
そもそも生命体に備わる機能は後付けにせよそれなりの役割を担っているものだ。
人間は当然の如くこの害を為す微生物ないし細菌、若しくはウィルスを撃退しようとするだろう。
それは消毒なりワクチンなりと(どうやら昔はかなり科学が発達していた様子から)。
微生物の機能だからGmUのようにすべての情報を把握し利用することはできないだろう。
だが、殺意であるとか自分たちを排除しようとする念のようなものだけであれば極微の情報からでも察知することは可能かもしれない。
そのような自分たち(微生物)にとって脅威となる思惑や感情を察知できれば彼らはその脅威を避けやすくなるだろう。
これは生物の生存本能とやらからしてみても在り得なくはないことだ。
さて、その微生物がどの様な仮定を経て精量という形にまで進化したのか。
このことについて非天は次のように推測した。
いくら心情を読み取ると言っても人間の心理というものは複雑でしかも突発的な部分を多分に秘めている。
つまり、つい先程までは脅威を感じない相手てあっても、何らかの突発的な事象により急変する可能性があるのだ。
そこには単体では感知できない程の複雑な情報のやり取りがあり、そのような過程を経た脅威を判別するには複数体の連携と協力が必要になって来る。
これらの微生物は正にそれを成し遂げてしまったのだろうかと。
そして、人の手によってかどうかは不明だが、その微生物から害が取り除かれ精量と名付けられた後も自分たちの脅威となり得る人間たちからは遠のき、そうでない人間には近付くという習性は残った。
また、莫大な数に上る精量たちの連携により人元からの情報をより鮮明に解析できるようになった。
文字通り人の心情が読めるようになった精量はその習性故、気に入らない人間から遠退いていった。
また、それとは逆に気に入った人間の周りにはたくさん纏わりつくようになり、その人間の願いや思いを感じ取ると自分たちの特性を以ってそれを手助けするようになったのではないか。
非天はリベ・ルナの話を聞いてそのようなことを想像した。
そして、そんなリベ・ルナの協力を心から感謝した。
「リベ・ルナ、いろいろと手伝ってくれてありがとう。」
「何よ、急に。」
「いや、ただありがとうって伝えたかっただけ。他意はない。」
「あ、そう。まあ感謝されれば私も嬉しいわ。けど、気紛れだからね、私たちは。いつでも手伝うってわけじゃないから。そこだけは肝に銘じておいてよ。」
「ああ、覚えておくよ。」
この国の頂点たる王家の次に位置するはここ王族の領域。
首都パルスデモニアの中心部には将来この国を支える若人たちの通う学び舎、グランデルホワイトハイムの敷地が広がっていた。
この学校には王族領土内から選り抜きの生徒たちが集められていた。
その中にあって生徒会会長のヒルデリカ・デモニアンテは異彩を放っていた。
ヒルデリカは王家に最も近いとされるデモニアンテ家の長女であり、学力、魔法力、運動能力、そして美貌、すべてにおいて群を抜いていた。
彼女はまだ十五歳であるにも拘わらず既に高等部の三年生となっていた。
この学校のシステムでは九歳で初等部の入学試験を受けることができる。
そして合格した者だけが晴れて次の年度から初等部に入学する。
初等部、中等部、高等部を各三年間学んだ後、十八歳で卒業となるのだが、中には学力が足りなかったり何らかの理由で落第する者もいた。
また、それとは逆に成績が優秀であり素行にも特に問題がないと見なされた者は飛び級がかなう場合もあるのだ。
ヒルデリカはその飛び級試験を何度かクリアし、歴代最年少で卒業する見込みとなっていた。
なっていた、というのはそうではなくなる可能性が出て来たということだ。
ヒルデリカはいつになくイライラをその仕草に表わしていた。
彼女は腕を組みながらただ一人、生徒会室内を歩き回っていた。




