524 月と火と水と
ヒナミも内心では驚いていたが冷静な口調でショウに言った。
「ほら、次はショウの番よ。頑張って!」
ショウはズーミの成功を目の当たりにして確信を得たようだ。
「ああ、分かった! 俺も炎の玉を出すぞ!」
ショウが強く念じると今までには見られなかった赤く光る小さな粒が現れた。
「お! これは……火の玉か?」
ヒナミはニコリと微笑むとショウを激励した。
「うん、でもまだ小さいわね。もっと大きいやつお願い!」
ショウは俄然やる気を出して鍛錬に集中した。
「よし! 頑張るぞ!」
ヒナミはズーミにリベ・ルナから聞いたことを教えた。
「やっぱりあなたは早かったわね。何でも毎日泳いでいたのが鍛錬になってたみたいよ。」
ズーミはまだ信じられない様子で呆然としていた。
「成程、そうゆうことか……けど、おったまげたわ。」
「次はね、その水玉をたくさん出せるように頑張ってみて。」
その後、暫くの間訓練は続けられた。
建物の外では残った子どもたちが手を傷付けないよう気を付けながらアルミ複合板を運び続けていた。
ショウは先程の赤く光る点を三つまで出せるようになった。
「外の皆はちゃんと運べてんのか?」
ヒナミは出口の方を見ながらそれに答えた。
「まだ、さっき運んだのが半分くらい残ってるから大丈夫。」
それから更に三十分ほどが経過した。
その頃にはズーミは水玉を数えきれないほど現出させ、それを移動するまでに能力を成長させていた。
「精霊様ってのは本当に全部見えてらっしゃるんだね。それに、私にもこんな魔術みたいなことができるなんて今でも信じられないよ!」
実は二人の力が急成長したのはヒナミの能力が大きく関係していた。
ヒナミの能力は回復やバフ、デバフの他に人の能力アップを促進する力も備えていたのだ。
この能力は相手を熟知しているほど効果が強く現れた。
二人とは幼少からの付き合いだった為、その効果も倍増したというわけだ。
そして、それらの効果を二人に与え続けることでヒナミの能力もまた大きく成長していった。
ざっと一時間ほどが経過した頃、三人のレベルは三段階ほどアップしていた。
ショウは無数の光の粒を発生させ、それらを一点に集めることで炎の玉を作りだすことに成功していた。
ズーミに至っては大きな水玉を自在に操ったり水流を水鉄砲のように壁に当てたりできるようになっていた。
勿論これらの術はヒナミのバフ効果も寄与していたが、それにしてもあまりに急速な成長であった。
これには非天たちも思わず眉を顰めた。
「相乗効果がもろに嵌ったみたいだ。この訓練方法は三人に合っていたのだろうか。」
リベ・ルナも何故か得意げに感想を述べた。
「うんうん、やるじゃないさ、あの子たち。これなら思ったよりも早く計画を実行できそうね!」
「それにしても……精量の能力アップってのはあんなに早いものなのかい? なら何で今までこの能力は放置されていたんだろう。これだけ使えるなら魔術なんかいらないじゃないか。」
「さあね、けど普通なら何度やってもああは行かないんじゃないかな。癖や暇つぶしで何回も力を使ってる人が数人いたけど特に変化は見られなかったし。」
「成程……。」
非天はそう呟くと少し考えてからリベ・ルナに尋ねた。
「ところで、リベ・ルナは何故私に力を貸してくれようと思ったの?」
「うーん……そうね、何かしっくりくるって言うか、楽しそうだったから? あとは……怖くなかったからかな。」
非天はその言葉に着目した。
「怖くなかった?」
「うん、怖くなかった。て、言うか安心できたって方が正しいかも。」
非天はその言葉を聞いてあることに気が付いた。
それは精量の持つ機能、及び人間とのかかわりについてだった。




