523 隙間時間で訓練しよう
何れにせよ今は先ず何とかしてログロからの感染を食い止めなければならない。
非天はアルミ複合板が子どもたちによってある程度運び出されるまで村の様子を見て回った。
「やはり何処にも見当たらないか……。」
非天はログロの存在を聞いた時、ある事態が彼によって引き起こされたのではないかと感じていた。
それはネズミが大量に発生し出した原因ともなったであろう、ネコが何処にも見当たらないという現状についてだった。
非天がリベ・ルナにそのことを聞いてみると、その予想は正しく的中していた。
リベ・ルナはいかにも嫌そうな声色で返答した。
「そうそう、あいつがネコを蹴ったり石を投げたりして虐めてたから、それでいなくなっちゃったんだと思う。だって、死んじゃったネコも一匹や二匹じゃすまなかったんだから!」
非天はそれを聞いて納得した。
ネズミの天敵であるネコがいればここまで酷いことにはなっていなかったかもしれないのだ。
非天はある程度の算段を立ててからリベ・ルナを通してヒナミに伝言を送った。
「ヒナミ、聞こえる?」
ヒナミは運んでいたアルミ複合板を壁に立て掛けるとその声に応答した。
「はい、聞こえます。」
「ちょっと試したいことがあるんでショウとズーミに声を掛けてくれるかな。」
その時丁度ショウとズーミがアルミ複合板を担いでヒナミのところに追いついて来た。
「ちょっと、私が四枚も運んでるのに何であんたは二枚しか運んでないのよ!」
「いや、重いだろう。それに、俺は早さ重視なの!」
ヒナミはそんな二人を見て苦笑いしながら声を掛けた。
二人はヒナミに言われるがまま、運んで来た板を壁に立て掛けた。
「どうした、また精霊様のお告げか?」
「ええ、そうよ。あなた方二人に試してもらいたいことがあるんだって。」
「え、俺たちに?」
ヒナミはリベ・ルナの指示を自分の言葉で伝えた。
「先ずはショウ、あなたからね。」
「あ? ああ。」
「それじゃあね、ちょっと右手の人差し指を見てくれる? 自分の指よ。」
「何だ?」
ショウは自分の右手の人差し指を見つめながらヒナミに確認した。
「これでいいのか?」
「うん。そしたらそこに炎が現れるように念じてみて。」
「ああ、あれか。いや、炎なんか出るわけないじゃん。指先がちょっとだけあったかくなるくらいだぞ。」
「いいからやってみて。精霊様が力を貸してくれるみたいだから。」
ショウはそれを聞いて了解した。
「そっか、そんじゃあやってみっか……。」
ショウはヒナミの指示通り指先から炎が出るよう念じてみた。
するとそこにはいつも通りの生暖かい空間が一瞬現れた。
ヒナミは一つ頷いてリベ・ルナの言葉をそのままショウに伝えた。
「うん、それをあと百回くらい繰り返してみて。」
「百回もか? まあ、いいや。やってみる。」
ショウは半信半疑でありながら素直に同じことを繰り返し始めた。
「ショウ、イメージするのは飽くまで炎だからね。」
「ああ、分かってる。炎ね、炎。」
次にヒナミはズーミにもお願いした。
「私、念じても何も出てこないよ。」
「ズーミの場合は水みたいね。」
「水……なの?」
「うん、だからそうね、例えばその辺りの湿り気がちょっと増すとか。」
「ああ……そりゃ気付かないわ。湿り気なんて分からないもんね。で、私は何をすればいいの?」
「水の玉をイメージしてみて。最初は雨粒くらいの大きさでいいから。」
「雨粒って言ってもな……。」
ズーミは取り敢えずショウと同じポーズをとり雨粒をイメージしてみた。
「これやんの何年ぶりだろう……。」
すると、ズーミの指先に直径1㎝ほどの水の玉が出現し下へと落下した。
ズーミは床に広がる水の跡を食い入るように見つめながら独り言のように叫んだ。
「何だ!? 前やった時はこんなこと起きなかったのに!」
それを見ていたショウもその現象に目を見張った。
「凄げえ! ははは、ズーミ、お前……魔術使えたんか?」




