522 精量の特性
非天は早速ログロの捜索を行った。
だが、どうやら村の中にはいないらしい。
次に非天が森の中を探索してみると、すぐにログロを見つけ出すことができた。
彼はヒナミたちが通って来た獣道から少し入ったところで横に倒れていた。
そして非天の予想通り、彼にはペストの症状が現れていた。
これからアルミ複合板を村に持ち帰る際、たくさんの人たちがこの獣道を往復することになる。
もし、その道中で彼に出くわしたなら、または彼の便や嘔吐物に触れようものなら感染のリスクは大いに高まるだろう。
非天はどうしたものかとあれこれ考えてみた。
この状況を打開する為にはリベ・ルナの力を借りる他はないのだが、正直その力の性質については不明な点が多すぎた。
今までの経緯からするとこの力は周囲の情報を視覚や聴覚で捉えられる形に変換して与えてくれる。
また、リベ・ルナの声は相手が彼女の声や存在に意識を向けることで伝わりやすくなるようだ。
つまり、非天以外の人間であってもリベ・ルナからの情報は入出力が可能なのだ。
非天は一つの考察を思い描きながらリベ・ルナに質問した。。
「リベ・ルナ、君は何か物質を動かしたりはできるの?」
「何かって?」
「そうだな、例えば木の葉を揺らしたり火を発したり……。」
「ああ、そうゆうのは無理。相手が私を強く求めれば心ン中で会話をやり取りできるってくらいかな。さっきのヒナミみたいにね。ま、あんたには会話の他に絵や音を運ぶことはできるみたいだけど。」
非天はそれを聞くと別の事柄を尋ねた。
「それじゃあ、精量とコンタクトできるのは……つまり、会話したりできるのは私とヒナミくらいのもの?」
「うーん、近くに精量がいるんなら意思の疎通はできるんじゃないかな。会話できるかどうかは分かんないけどね。ただ、精量の力は誰でも扱うことができる……筈。」
リベ・ルナの話からすると人によってリベ・ルナとは違う別の性質を持った精量がついている場合がある、ということか。
「例えばどんなふうに?」
「ほら、ヒナミの友だちのショウっているでしょう? そうそう、その板を運んでる男の方。そのショウなんかは熱系列の精量を操れる。つっても一点をほんのちょっとの間あったかくするくらいだけどね。」
「それは修練を積めば効果を大きくすることはできるの?」
「え? そう、ね……うーん。」
リベ・ルナはそう呟くと暫く考え込んでいるようだった。
「分かんない。そんなことやろうとする人あんた以外に見たことなかったし……。」
非天は「そう」と一言返事をすると今一度精量と言われる存在の可能性について考えてみた。
先ず精量の捉えられ方だが、どうやらこの世界に於いて精量の効果というものは軽視されているようだ。
だが、非天からすればこの『精量』という存在はある意味奇跡的とも言えた。
それは人の心に直接働きかけられるという事実からも、現在使用している機能からも疑いの余地はない。
そして、人の心と直接情報をやり取りできるとなれば思い出すシステムはただ一つ。
それはGmUという存在だ。
そこから考えるに、どうやらリベ・ルナのような精量には人間と人元の間で交換されている情報に割り込むことができる力が備わっていると見られる。
ただ、そこから力を発動させるとなると人やその精量によって現れる性質はまちまちということだ。
非天はリベ・ルナに質問した。
「ヒナミとズーミの精量はどんな特性を持ってるんだい?」
「ズーミは水かな。ヒナミはねぇ……よく分かんないけど多分回復的な何かだと思う。」
「ほう、それならみんなのレベルは今どれくらいなの?」
「え? そうね、分かるかな……うーん。」
リベ・ルナは暫くの間黙りこくっていた。
非天以外の人間のレベルを探れるか試していたのだろう。
「あ、何か分かっちゃった。そうね、ショウはまだレベル2。あ、でもズーミはレベル3になってるわ。あの子、毎日泳いで身体鍛えたりしてるからかな? そんでヒナミは……あ、凄い! レベル5だって!」
非天はそれを聞いて納得した。
「成程ね、そうゆうことか。」
医療の発達していないこの環境でスーニャがこの歳まで生きながらえることができたのは奇跡とも言えた。
だが、それは恐らくヒナミが知らず知らずのうちに精量の力を発動していたからに違いない。
それによってヒナミのレベルも上がって来ていたのだろう。
彼女の姉を救いたいと思う気持ちがいつの間にか精量の能力を高めていたのだ。




