516 何かないかな
しかし、ここまで時間が経過しているとなると医薬品の類については期待できなかった。
映像は更に部屋の奥へと進み、ドアがまだ設置されていない枠だけの入り口から隣の部屋へと移動した。
その部屋も先程の部屋と同じくらい(30メートル四方ほど)の広さだったが、あちらこちらに資材が置かれていた。
非天はその部屋全体が見渡せるようリベ・ルナに頼んだ。
「ここはどうやら倉庫代わりに使われていたらしいな。」
そこにある資材は散乱しておらず、きちっと重ねられていて状態もよさそうだった。
この場所は奥まったところにあったのでほとんど風雨にさらされることもなかったのだろう。
とは言え、やはり長い年月が経過していると見えて木材も石膏資材も朽ちているようだった。
非天は何か使えそうなものはないだろうかとその映像を見回した。
「リベ・ルナ、あの奥にあるのは何だろう。」
そこには少し薄い板状のものが大量に積まれていた。
非天はリベ・ルナに頼んでそれをクローズアップしてもらった。
「お、これなら使えるかもしれないな。」
それは1メートル×2メートル程の大きさのアルミ複合板だった。
アルミ複合板とは薄いアルミ板二枚で樹脂を挟み込んだ軽量の板材のことである。
用途としては看板の下地であったり風呂場の内壁を装飾したり等々、様々な場面で活用される。
比較的丈夫な上にカッターで切れ目を入れて折るだけで切断できるため加工もしやすい。
恐らくこの部屋の内壁に貼り付ける積りだったのだろう。
非天は映像をクローズアップしてもらい、アルミ部分の分子構造や腐食の度合いを見た。
「純度が高く不純物もほとんど見られない。アルマイト加工もしっかりと施されてある。縁の切断面でさえそれ程の腐食は見られない……こいつは特注の品だな。まあ、樹脂の方はもうダメかもしれないがこれだけの量があれば何かと使えそうだ。さて、あとはネズミをどう排除するかだが……。」
その部屋の奥にはドアが二つあった。
映像は右側のドアを擦り抜けてその向こう側の部屋の内部を映し出した。
だが、丁度その時ヒナミがスーニャの所に食事を運んで来た。
「お姉ちゃん、遅くなってごめんね! って、まだ寝ているのかな……。」
非天はリベ・ルナにそのことを伝え聞くと一つ頼んだ。
「私たちの状態を見せてくれないかな。」
「お安い御用!」
すると映像にはこの部屋が映し出され、茣蓙に横たわっているスーニャの上半身が映し出された。
窪んだ目、痩せこけた顔、がさがさな唇。
「これがスーニャか……。リベ・ルナ、もうちょっと引いてくれるかい?」
映像はゆっくりと引いて行った。
スーニャは茣蓙の上に死んだように横たわっていた。
やがてスーニャの全身が入り込み、その横にはヒナミがお椀を抱えて膝を突こうとしていた。
スーニャの下半身には両の脚が無く左腕も小さかった。
ヒナミは膝を突いた状態で心配そうにスーニャの顔を覗き込んだ。
「そろそろ食べないと身体によくないよ。お願いだから今日は食べてね。」
ヒナミはスーニャの横に座ると運んで来た食事をスプーンでゆっくりとよそい彼女の口元へ運んだ。
「あ、そうだ……。」
ヒナミはそう言うとスプーンをお椀に戻した。
そして、スーニャの額に手の平を当てて熱がないかを確認した。
「うん、大丈夫。熱はないみたいね……。」
ヒナミはスーニャが流行り病に罹ってやしないかと心配したのだ。
食事が終わるとヒナミはスーニャの全身を摩ったり関節を曲げたりしながら彼女に話し掛けて来た。
「今ね、村に怖い病気が流行り出してるの。それでね、私、皆に相談されたんだけど……。」
心なしか少し暗い顔をしているヒナミを見て、非天はリベ・ルナにゴーサインを送った。
リベ・ルナはこくりと頷くとヒナミに声を掛け出した。
「ヒナミ、ヒナミ……!」
だが、その声はヒナミの耳には届いていない様子だった。
「やはり聞こえていないか……。」




