514 村の風景
その光景は動画のように動いており、村のあちこちが映し出されていた。
村は思っていた以上に荒れ果てており、家屋は台風でも来たら確実に吹き飛ばされてしまいそうな代物だった。
場面が川向こうの森方面に切り替わった時、リベルナは非天に説明した。
「ほら、あれがさっき言ってた四角い塔よ。凄いでしょう!」
そこにはこの村には到底見合わないビルのような巨大建造物がこちらを見下ろしていた。
だが、その四角い塔の周囲にはツタが絡まり外壁にはコケが生していた。
これは遺跡か何かだろうか?
にしては私たちがいた世界の建造物に酷似しているようだが……。
非天はついついその光景に見惚れてしまっていたが、すぐさま頭を本題に切り替えた。
「リベ・ルナ、倒れた人たちの様子は見られるかい?」
するとその映像は再び切り替わり、筵の上で苦しがっている人々が遠目から映り込んだ。
「もうちょっとズームアップできる?」
「えっと……こうかな?」
すると、寝転がっている人の内の一人の身体がアップになった。
額からは汗が噴き出しており、寝床の横に掘られた穴やその周囲には嘔吐物が散乱していた。
手足は黒く変色しており、足の脛には腫が見られた。
「よし、いいぞ、リベ・ルナ。しかしこれは……! 」
褒められたリベ・ルナは調子に乗って更に顔をアップした。
「えっへっへー! もっとできちゃうもんね!」
「あ、いや、それ以上は……。」
すると、そこからグングンと映像はクローズアップされ、何だかよく分からないものが映り込んで来た。
「ん……なんだ、これは? いや……こいつはどこかで見たことのあるような……。」
そこにはソーセージの様な形状の細菌がうようよと犇めいていた。
それを更に拡大していくとその物体の内部にあるDNAの形状が露呈した。
「ここまで見られるとは……。凄いなリベ・ルナ。」
リベ・ルナは自慢気に返事をした。
「えっへっへー。そうっしょ!」
「このDNAの配置と形状……こいつは間違いない、黒死病だ! リベ・ルナ、こういったことは初めてかい?」
「ううん、三十年位前にも同じことがあって、そん時は村の半分以上が死んでしまった。だから慌ててるんだよ!」
非天は少し考えてからリベ・ルナに尋ねた。
「ねえ、リベ・ルナ。何とかして誰か、そうだな……妹! 妹のヒナミに伝言はできないかな。」
リベ・ルナは「うーん」と唸った。
「前に何度かやってみたんだけどね、ほとんど気付かれもしなかった。……うん、でもちょっとやってみる!」
リベ・ルナがそれを再び試みようと思い立った理由は二つあった。
一つは以前何度かヒナミに話し掛けた際、一度だけ何となくだが伝わったような感覚があったのだ。
それは二年ほど前、大雨が降りしきる夜のこと。
長老の家が流されそうになっているのをリベ・ルナがヒナミに知らせようとした時であった。
「おーい、長老ガランの家が流されそうだぞー! おーい! やっぱダメか……。」
すると、両親と三人で食事をしていたヒナミが突然その手を止めたのだ。
「長老の家が危ない……!」
ヒナミは両親が止めるのを振り切りガランの家に向かって走り出した。
雨は激しさを増していたがヒナミは何とか小川沿いにあるガランの家まで辿り着いた。
ヒナミがガランの家の扉を開けると、彼は既に床に就いていた。
「長老! 起きてください! 早く非難を!」
ヒナミによって半ば強引に外に連れ出されたガランはいきなりの出来事に辺りをきょろきょろと見回すばかりだった。
「一体何なんだ、ヒナミよ。」
しかしその直後、凄まじい鉄砲水によりガランの家は見事なまでに粉砕してしまったのだ。
後で村の者たちが何故分かったのかとヒナミに尋ねたところ、彼女は「どこからか声がした……ような気がしたんです」とだけ答えた。
そのこともあり、ヒナミは長老ガランの推薦で『精霊の巫女』の称号を得たのであった。




