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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
501/625

501 方向性が大事

「とは言え戦闘はなるべく避けたいよな……。けど、こいつはなぁ……流石に運任せだ。」

 鳥山にはもう一つ、上手く行ってくれればいいなと思う程度の計画があった。


 鳥山はトイレのふたくくりつけられた石を一つ一つ取りはずし始めた。

「いざとなったらこの石も武器になるかな……。」


 鳥山は石をすべて取り外すと、今度はそれらの石を一つ一つ持ち上げては足元に叩きつけていった。

 石は床に少しねて転がったりしたが中には割れるものもあった。

「お! こいつは使えるかもしれねえ!」


 割れた石の断面は刃物のように鋭い部分があり、鳥山はそれをしっかりと手に握った。

 そろそろ身体にも限界が近づいていることは彼女も理解していた。

「こいつで自分を突かにゃあならなくなる前にとっととおっぱじめるか!」


 鳥山は先ず蓋から外した石を幾つかトイレの穴に投げ込んでみた。

 しばらくするとかなり下の方でカーンコーンという音が聞こえて来た。

「まあ、何とかいけそうかな……。」


 鳥山は先程服から引き裂いた数枚の布を重ねたものに精量で作り出した光の玉を包み込み、これまた服から抜き取った糸で手早く結び付けてそれをトイレの中に投げ込んだ。

 そして、すぐさま石を退けたばかりのふたをその穴の上にかぶせ、自分はその上に乗った。


 鳥山はその場にしゃがみ込み、そこからも精量に念を送った。

 こうすることで火の玉は少しだけだが活性化することが分かっていたからだ。


 そして、なるべく下の方で引火させることによって、より大きな爆発を生じさせることができると考えていた。

 布に包まれた種火から布表面に火が回るまでにガスが密集する下方へと届いてくれればよい。


 本来ガスは空気より軽いのだが、ここの場合は上層のガスは外に逃げてしまう為、むしろ蓄積されたゴミの周辺や水分に溶け込んでいる大量のガスに直接引火した方が効果も高いと踏んだわけだ。

 鳥山は蓋の上にひざをつき身を縮こませた。


 もし、ばい菌だらけの欠片かけらが飛んで来てそいつで怪我けがでもしようものなら、そこから思わぬ結果にもなりねなかったからだ。

 鳥山は緊張しつつその時を待ったが、しばらくは何も起こらなかった。

「失敗したか?」


 しかし、その時だった。

 はるか下の方でグオォォォ! と真空ポンプが何かを激しく吸い込むような音が鳴り響いた。

「来るぞ! ふた、良し! 角度、良し! 体勢、良し!」


 次の瞬間、バーン! という激しい音と共に鳥山の乗ったトイレのふたは彼女を物凄い勢いで押し上げた。

 思っていた以上の激しい衝撃に心臓を高鳴らせながらも、鳥山は次の行動を頭の中でイメージした。

「よし、今だ!」


 蓋の加速が重力と相殺そうさいされたその時、6、7メートルの高さにあった開口部が目の前に迫った。

 鳥山は決死の思いでそこに向かって手を伸ばした。


 無我夢中で開口部のふちにしがみつくと、乗っていたふたが下の方で激しく床を叩く音が聞こえた。

 心臓がまだバクバク鳴っていたが、大切なのはここからだった。


 鳥山は残りの力を振り絞り、何とか開口部の中に身を収めた。

 そして、下を覗き見ながらつぶやいた。

「意識が朦朧もうろうとしていたとはいえ、よくこんなことやろうと思ったもんだ……我ながら。」


 暗い周囲を目視するとその開口部は2メートルほどの奥行きがあり、向こう側の出口は何かでふさがれているようだった。

 鳥山はそこに近付くと出口をふさいでいる板の材質を確認した。

 それは先程のトイレの蓋と同じような木製の板だった。


 足でガンガンと蹴ってみるとその厚さもどうやら先程のふたと同じくらいに感じた。

 だが、非力なこの身体で数回蹴ったくらいではその板はびくともしなかった。

「いてて、今足が壊れちまうのは得策じゃないな。」


 とは言え、このままでは逃げたことに気付かれてしまう。

 鳥山は一刻も早くこの場を離れなければならなかった。


 鳥山は精量の火でその板を焼き払えないか試してみた。

 急に板がはずれると強風が吹きこんで来たり何があるか分からないので、彼女はその板から少し距離を取った。


 彼女が念を込めると火をまとった精量は板の間近に現出した。

 精量はしばらくそこで炎を発していたが板はわずかに黒くげただけだった。

「やはり、まだダメか……。」


 これでは何時いつになることやら分からない。

 鳥山は板ににじり寄りそのふちの部分を観察した。

「う~ん、暗くてよく見えないな……。」


 鳥山は精量の火をともしてみた。

「お、これならよく見えるぞ!」


 観察の結果、板は外側の木枠に六本の釘で打ち付けてあることが分かった。

 鳥山は精量の火をその釘の辺りに集中させた。


「熱量を上げたいな……。」

 鳥山がそうつぶやくと、それに呼応するかのように精量は小さく収縮し強い光を放ち始めた。

「おお! これならいけるかもしれねえ!」


 六本の釘の周辺をある程度熱した後、鳥山はもう一度板をってみた。

 するとわずかではあるが板が浮いたような感覚が足の裏に伝わった。


 鳥山はその後三度ほど同じことを繰り返した。

「よし、今度こそ!」


 鳥山は渾身こんしんの力で板をバン、バンと蹴ってみた。

 すると遂に板はバキッという音を立てて外に転がり落ちた。

「やったー!」


 鳥山がそこから顔を出すと、そこは薄暗い通路につながっていた。

「目隠しをされてここまで連れて来られたが、思った通り地下牢だったようだな。」

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