05 怪しむ姉とのお喋り
私はその後他の歌含め14曲、少女と一緒に歌って踊った。
私は歌オタクとして今昔流行りの歌の殆どを網羅していた。
とはいえ、歌詞を完璧に覚えていないものもある。
なので画面の端にカラオケみたいな文字が出て来るのには随分と助けられた。
少女は塾の時間となりサボろうとしていたが姉に促され渋々部屋を去った。
居残った姉は私の方を見ている。
「あなた、何でそんなに歌えるの?」
「え?」
私は何と説明したらよいのか考えた。
姉は私が戸惑っているのに感付いたらしく、気を遣うように言った。
「いや、わからないならいいんだけど。」
確かに前世の記憶はある。
しかし、未来にしては流行りの曲がどうやら共通してるっぽい。
どう考えても異世界だよね。
しかし微妙なんだよな~。異世界ってこうさあ、魔法とかエルフとか出て来て無双のスキルでドヤーーー! ってやつでしょ。
何? 今のこの私の状況……。
そうだ聞いてみよう。
「えっと~。私って何なんですかね?」
姉は一瞬きょとんしながらも答えてくれた。
「あなたは、3Dボーカロイドソフトのキャラクターで、思考はQC由来のAIだと思う。」
QC? AIなら聞いたことあるけど。まぁ近未来のコンピューターってことね。
あぁ! でも、やっぱりか~。
多分そんな感じはしてたんだよな~。
ボカロか~私!
「そう言えばあの子、名前も付けないで……。」
「私の名前?」あれ、思い出せない。
「あなたの名前は後であの子に付けさせるわ。」
あ、そう言えばさっきの言葉……聞いてみたい。
「あの~、さっき私が『かわいい』とか何とか……。」
姉は目を大きく見開いた。
どうやら私の質問に驚いた様子であった。
「うん、かわいいよ。鏡見る?」
そう言いながら鏡を取りに行ってくれた。
関係ないかもしれないが、このモニターはカメラの機能も内包してる様だった。
ライブカメラがモニターの上部にあれば目の動きでわかる。
って、かなり冷静だよね、私。
「え、これが私……かわいい!」
思わず口に出してしまった。
ダンスしてる時うすうす感じてはいたが……。
私の理想をも超越した美しい顔立ち。
かわい過ぎるスタイル!
そして流石、近未来のCG……本物の人間みたい!
ついでに衣装もアイドルっぽいものになっている。
「かわいくしてくれて、ありがと~~!」
私は姉に感謝の弁を述べた。
「自分で自分のことかわいいって言う? 未調整のAIが。」
姉はまじまじとこちらを見ながら溜息を吐く様に言った。
「本物の人間と話してるみたい……。」
視線をそらす私(///)。
「あ。」
姉は我に返り、先ほどの話に戻してくれた。
「これ私がキャラメイクしたわけじゃなくてランダムだから……。」
「と言いますと?」
「あの子が事前に記入したアンケートをもとに日付や場所などの乱数で顔やスタイル、他にも声とかいろいろな性能が決まって来るの。勿論、ステータスや固有スキル、後は……初期情報なんかもね。」
「なるほど、なるほど~。」
ヲタクとまでは行かないが私もゲームは一通りかじっている。
このキャラメイクは禁断の『完全差別化』を図った進化系ってところか。
「て、ことはですよ。」
私は恐る恐る疑問に思ったことを口にした。
「もし気に入らない場合はキャラの作り直しって事になるんでしょうかねぇ。」
そうなれば存亡の危機。是が非でも確かめねばならない。
「それは多分大丈夫。」
多分て、そんなアバウトな……。
「一つのシリアルナンバーにつきキャラクターは一つしか作れないし、確定してしまえば作り直しも不可。」
うん、それなら値段はわからんけどキャラが気にくわないからと言って即捨てちまう可能性は低くなるわね。
「ただ、その辺は事前アンケートを基にQCやAIが選別して障りのない様にメイクしてくれる。」
「ほうほう。」納得の安心感。
「しかも、その後の成り行きや会話など、環境次第でキャラは如何様にも成長するし。目も当てられないキャラが大化けする事もあるのよ。」
「おぉ、何と! それは楽しみでござるな!」
姉は怪訝な顔をしてこちらを見ている。
「ござるなって……いくら何でも会話対応データが豊富すぎる。初期仕様?」
姉はスマホをちらっと見て言った。
「あら、もうこんな時間! 一回切るね。」
「え、あ、はい。」
画面が切れて暗くなった。