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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
499/625

499 令嬢、逮捕される

 フィヴは友だちどころか世間話をする相手すらいなかった為、そう言った一般常識的な事柄についてはかなりうとかった。

 してや魔力に関する話など本で得た知識くらいしかなかった。


 せめて、小説のような書籍でもあればそのような内容も書かれていたかもしれなかったが、そういったたぐいのものはほとんど書庫には置かれていなかったのだ。

 フィヴはふと先程襲われていた二人の子どもたちのことを思い出した。


 何処どこからか逃げおおせて来たのだろうか。

 それとも単に主人とはぐれてしまっただけなのか。


 フィヴはあの二人を追跡すべく夜の街にドローンを走らせた。

「あの二人も特権階級にいたってことだよな……。」

 だが、結局のところ二人を見つけ出すことはできず仕舞いだった。


 さて、フィヴが牢に入れられたのはこの半年後であった。

 貴族たち数人が何者かによって魔力を奪われた事件。

 これが領主たちの知るところとなり、それを聞きつけたフィヴの父親であるザン・コークにとうとう見つかってしまったのだ。


 ザン・コークはフィヴに危害を加えることもなく、ただ部下たちに彼女を連行させた。

 警察に突き出された彼女はそのまま牢獄に留置されてしまったというわけだ。


 警察はフィヴの部屋や実験室を捜索し、すべてを押収してしまった。

 だが、この件に関して父親であり管理者のザン・コークがとがめられることはなかった。


 それは彼が貴族たちの中でも五本の指に入るほどの権力者だったからだ。

 そもそもこの件に関しては上層部も早急に、そして何事もなかったかのようにかたを付けたかったと見える。


 この件に関しては上層部の更に上、つまりは王族の人間が出張って来た。

 フィヴの持ち出した遺物やそれを使用したことが問題視されたのだ。


 更にフィヴがこの魔力衰退ガスを大量に作成していたことや、このガスの応用分野にまで研究を進めていたことまでもがバレてしまった。

 彼女はいきなり連行されてしまった為に後片付けや証拠隠滅ができなかったからだ。


 フィヴの処刑が執行される日時はまだ決まっていなかったが、その日を待たずして彼女の命は尽き果てようとしていた。

 牢獄は昼間でさえ極寒だった上に水さえも与えられず放置されており、もしこのまま夜を迎えれば凍死はまぬがれなかったからだ。


 何とかしようとあれこれ考えてはみたものの、人さえ寄り付かないこの牢獄ではその手掛かりすら見出すことができなかった。

「シロタエ……。せめてシロタエだけでもここにいてくれたらなぁ……。」

 意識が薄れる中、フィヴはその短い生涯を閉じようとしていた。


 鳥山が転生して来たタイミングは正にこの時であった。

 周囲を見ても何もない。


 目に入ったのは排便用の穴をふさいでいる木製のふたのみだ。

 その蓋には何故か大きな石が幾つかくくりつけてあった。


 上方を見上げるとそこには幅広な開口部がぽっかりと口を開けていた。

「上まで6、7メートルはあるか……。登れないよなぁ、流石さすがに。」


 鳥山はここである方法を考え付いたが、その為にはいろいろと検証が必要だった。

 それはフィヴの記憶にもあった精量なるものの存在とその効果についてだった。


 鳥山は眠気で意識が飛びそうになるのを防ぐ為、てのひらで壁を思い切り叩いた。

 だが、余りにも消耗していた為に力が入らず大した効果は得られなかった。

「ああ、眠い! ものを考えるだけで思考停止してしまいそうだ……!」


 鳥山は今度はほおの辺りを思い切り足元の床に叩きつけてみた。

 これは流石に痛かった。

ってぇー! ちょっとやり過ぎちまったか……。」


 かく、次の眠気が襲って来る前に何とかこの計画を実行に移さなければならない。

 鳥山は自分の身を包んでいる囚人服のそで部分を引き千切ちぎった。

 粗末そまつな服は彼女の非力でも簡単に破れてしまった。


 その布を数枚に千切り一旦下に置くと、次に彼女は一点を見つめ何やら念じ始めた。

上手うまく行ってくれよ……。」


 鳥山は精量による炎効果を頭の中でイメージしていた。

 鳥山がフィヴの記憶を頼りに念じ続けていると、何やら彼女の目の前に小さな赤い光が一瞬だけともされ、そして消えた。

「うん、ここまではフィヴと同じ……。」


 一応、風や水などの効果も試してみたが、どうやら火が一番しっくり来るようだった。

 だが、それは彼女の計画にとって好都合と言えた。


 鳥山は更に何度も何度も同じことを繰り返した。

 その度に赤い光が灯されては消えて行った。


 鳥山は意識が遠退とおのきそうになるたびに顔を床に打ち付けた。

 もう身体をつねったりツボを押し込むくらいでは眠気を打ち消す効果がなかったからだ。


 余りに眠い時などは額から出血するほど強く叩きつけるしかなかった。

 なるべく脳に損傷がいかないように……。


 それからどれくらいの時が経過しただろう。

 ある時から、赤い光が一度に二つともるようになった。


 始めは目がかすんだのかとも思ったが、どうやら本当に二つ発したようであった。

 それを確信した時、鳥山は「よし!」と言ってこぶしを握った。


 鳥山はこの時をひたすら待ち望んでいたのだ。

 このレベルアップの時を!

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