497 令嬢、遺跡を調べる
フィヴは先程手に入れたもう一つの箱の中にある装飾品について白い箱に尋ねた。
「この箱の中にある装飾品は魔素と何か関係あるの?」
「はい、それらのインターフェイスは魔素を追加するときなどに使用するものです。」
フィヴはその聞きなれない言葉について確認した。
「インターフェイス、つまり橋渡しってことか……。どうやって使うの?」
「はい、先程その箱を開けた時に使った磁石を使用します。その磁石の丸いくぼみの部分を指で摘まんでください。」
「ああ、これか。」
フィヴは設計図通りに作成した磁石を手に取った。
この平べったい長方形状の磁石には両面の同じ場所に丸いくぼみがあり、四つ角のうち一か所が面取りされていた。
フィヴは丸く削られたくぼみに指が来るようにその磁石を摘まんだ。
「これでいいのかな?」
「はい、そんな感じです。あとは使用したいインターフェイスを選んでいただき面取りした角の部分で軽く三回叩きます。そして、三秒以上経過してからもう一度三回叩きます。すると、そのインターフェイスから固有の電波が発信され各地に設置されている施設が起動するのです。」
フィヴはそれを聞いて目をぱちくりさせた。
何やらえらいことを聞いてしまったような感覚に襲われたのだ。
「そんな施設が……あんた、いいの? こんなこと私に喋っちゃって……。」
「はい、勿論です。あなたはコーク領家の家系を引き継いでおり、更にはこの箱を開けることができました。データを公開する為に必要な条件はすべて整っています。」
フィヴはこの白い箱についてその素性を知りたいと思った。
「あなたは一体その……どんな存在なんですか?」
「この機体もロストテクノロジーを用いた仕組みで構成されています。思考はコンピューターと呼ばれる半導体回路を主軸とする計算装置によって行っています。また、カメラやマイクを通して周囲の状況を把握し、正面中央部にあるスピーカーから音声を流しています。」
フィヴは書籍に書かれていた内容を思い出しながら頭をフル回転させた。
確かにそこには半導体回路やカメラ、マイク、スピーカーについても説明がなされていた。
だが、数式による解説だけはどうしても理解し難い部分があったし、半導体などそれらの材料となる物質を生成する方法については省略されていた。
それでもフィヴは今白い箱が言った内容をある程度理解することができた。
フィブは恐る恐る白い箱に尋ねた。
「私たちのこの会話はどこかに伝わったりしてるわけ?」
「いいえ、その心配はございません。現在の使用者はあなたですのでこの情報があなた以外の者に伝わることはありません。但し、盗み聞きなど直接聞かれたり見られたりしてしまった場合はその限りではありませんが。」
「それは王家や王族の人間にも伝わらないってこと?」
「はい。そもそも王家や王族の方々にとって私たちの会話など些末な事象に過ぎません。勿論あなたが何らかの理由で監視対象とされているのであれば別ですが、どうやらそういった形跡もなさそうですので。」
フィヴはそれを聞いて少しだけ肩の荷が下りたような気がした。
それからのフィヴは毎日白い箱と施設に関することやインターフェイスと呼ばれる装飾品の研究に明け暮れた。
そして遂にこの世界の絡繰りともいえる真相に辿り着いてしまったのだ。
「こ、これは……! 何とかしなければ……大変なことになるぞ!」
フィヴはその後一年かけてその絡繰りを粉砕すべく研究に没頭した。
また、インターフェイスを起動することにより各地に設置されている施設へのアクセスにも成功していた。
例の白い箱にはシロタエという名がつけられた。
これは単に呼びかけるのに便利だったから付けた名であったが、双方気に入っていたようだ。
さて、それらの施設はフィヴの予想通りロストテクノロジーによって建造された遺跡を改造したものであった。
遺跡と言ってもコンピュータなどの要所は当時のまま保存されており、それらはどうやら太陽や地底から発せられたエネルギーによって生き続けていたようである。
施設内の設備は魔素を生成、放出するものを始め、様々なものが存在した。
ドローンなるものを製造・管理する工場、聞いたことのない薬品を精製・管理するラボ、中には人体実験に使用されていたらしき施設まであった。
中でもフィヴが注目した施設は二つ。
一つは精量と呼ばれる生命集合体を実験する施設であり、もう一つは魔素を強化、または衰退させる為の装置を管理するものであった。
精量とは魔素の被験対象となった生命集合体と呼ばれるものだ。
鳥山の見立てからするとこの精量なるものはどうやら人間の人元に干渉でき得る代物らしい。




