496 令嬢と白い箱
フィヴは取り敢えず箱の中から白い立方体を取り出してみた。
上部には細い溝のようなものがあり、正面と思われる上部の右上には小さな楕円形の何かがあった(発光ダイオード)。
正面中央には直径1ミリメートル程の小さな穴が縦横に等間隔で配列されていた(スピーカーの穴)。
そして、その下方には横長の穴がぽっかりと口を開けていた(スロット)。
フィヴが上部にある溝のあたりを触ってみると、何やらそこが動いたような気がした。
彼女は恐る恐るそこをぐっと押してみた。
すると、立方体の上面が押し上げられ、その内部に付着した薄い膜のようなものがうっすらと光り出した(モニター)。
フィヴが眉を寄せながらそこに顔を近づけると、いきなりその箱の中から音声が鳴り響いた。
「起動します。」
「うわ!」
彼女は慌てて後退し、その様子を窺った。
「何だぁ?」
右上に付いている何か(発光ダイオード)が緑色になると薄い膜はぼんやりと発光し出し、だんだんとその輝度を増していった。
そして、そこにはっきりとした文字が浮き上がって来た。
>データカードを挿入してください。
「データカード……ああ、これか?」
フィヴは箱の中にあった黒い小さな板を立方体の横穴に入れてみた。
すると、その白い箱から再び声がした。
「魔素を追加放出しますか?」
フィヴは初めて聞くその言葉に戸惑った。
「魔素って……何のこと?」
「はい、それでは魔素についてご説明いたします。」
その白い箱が言うには魔素は人々に魔能力を与えるべく開発された所謂生体物質であり、これに多く順応した者が強い魔力を得ることができるとのことであった。
だが、その絡繰りについては説明できないようであった。
「どうして魔素は人間に魔力を与えられるの?」
「その仕組みにつきましてはデータが存在しません。用語解説によりますと魔素は元々ロストテクノロジーによって生み出されていたらしい生体物質を利用したものとのみ記述されています。」
フィヴは自分が魔力を扱えないのはその魔素とやらに何かしら関係しているのではないかと考えた。
「私が魔力を扱えない理由は何なのかしら。まあ、扱いたいって気も起きないんだけどね。何だか気味悪い感じがするし。魔素……うん、やっぱり名まえからして怪しそう!」
「人によって魔素に対する順応性に違いがあるのは明らかですが、その根拠は分かり兼ねます。ここで言えるのは順応力が高い人間が同じ家系に生まれてくる可能性が高いということくらいです。」
フィヴは「なるほど……」と呟くと、再びその白い箱に向かって問いかけた。
「つまり、魔素ってやつを追加で放出するのがあんたの役目ってわけ?」
「はい、その通りです。」
「どんな時に追加するの?」
「例えば人口がある程度増加して魔素が不足しそうな時などです。あとは王家を脅かすような強敵が出現した時など、魔力の増強が必要な場合です。」
フィヴは敵という言葉を聞いて不思議に思った。
「敵……そんなものが出現するの?」
「確率はゼロではありません。それに、もし王家に匹敵するような強敵が現れた場合、この世界は大混乱に見舞われてしまいます。ですから例えどんなに確率が低くてもその準備を怠ることはできないのです。」
確かにそれも無くはないかもしれない。
身分の低い人間、例えばこの世界の85%を占める人非人などは魔力を一切使えないという話だ。
だがもし、そんな中にいきなりとんでもない魔力の使い手が生まれたとしたら……。
そう、それはあり得ることなのだ。
強力な魔力を操れるこの家系からフィヴのような魔力がまったく扱えない無能者が生まれて来てしまうように……。
フィヴは今まで敢えて考えないようにして来た己が身に降りかかるであろう危機について、ここにそれらを回避できる可能性を見出そうとした。
だが、それについてこの白い箱に打ち明けるわけにはいかなかった。
この白い箱にどのような力が備わっているか分からなかったからだ。
もしかしたらここでの会話が誰かしらに伝えられているのかもしれない。
そして、ここで生まれつき定まっている筈の魔力の能力値を変えてしまうような理を発見してしまえば、いや、それを為そうと考えたことがバレてしまっただけでも確実に処刑されてしまうだろう。
さてと、どうしたものかな……。




