495 研究する令嬢
ある日の朝、それはフィヴが朝食をとる為に自室から食堂へと向かう途中のことであった。
彼女はいつも閉まっている部屋の鍵が空いていることに気が付いた。
フィヴが中を覗いてみると、そこは何やら神殿のようになっていた。
但し、祀られているのは神などではなく魔王の像であった。
フィヴは驚くこともなく、当然と言ったふうにそれをドアの外から眺めた。
魔王像の前には幾つかの装飾品が置かれており、フィヴはそれに魅せられてそっと中に入って行った。
それらの装飾品には今まで見たことのない金属や石が使用されており、細工もかなり高度なものだった。
フィヴはそれらが置かれている机の引出を開いてみた。
するとそこには数冊の本と二つの箱が置かれていた。
一つ目の箱には上にあったような装飾品がたくさん入っていた。
しかし、二つ目の箱には鍵でもかかっているのだろうか、どうしても開けることができなかった。
フィヴは引出の端に付着した僅かな埃と中にこもっていた匂いから普段ここが閉められっぱなしであることを直感的に悟った。
彼女は周囲を見回し人がいないことを確認すると、それら二つの箱を持ち出した。
そして、取り敢えず実験室までそれを運んだ。
この箱には鍵穴らしきものは見当たらなかったが、意味ありげに小さな穴が二つ開いていた。
だが、その小さな穴はどうやら箱を開けるためのものではないらしい。
フィヴは怪しまれないようにさっさと朝食を平らげると、すぐさま研究室に向かった。
彼女は椅子にドカッと座ると腕の裾を捲り上げ、先程開かなかった箱を何とかこじ開けてみようと挑戦してみた。
しかし、どうしても開けることはできなかった。
フィヴは考えあぐねる中、二つの箱と一緒に置いてあった書籍のことを思い出した。
彼女は先程の魔王像のある部屋へと戻った。
幸いまだ鍵は開いたままで何とかそれらの本を持ち出すことができた。
本は全部で八冊。
その内三冊はしっかりと製本されたぶ厚いのもので、残りは薄い冊子のようなものだった。
フィブは実験室に戻ると早速その本を開いてみた。
するとそこには見たこともないような数式と化学式が羅列していた。
初めてそれを見た時にはさすがのフィヴにもまったく理解できなかった。
鳥山の見立てでは、どうやらこの世界の科学は稚拙であり、その分魔力についての研究が進められているようであった。
つまり、フィヴがいくら優秀な頭脳を持っていようがこれを理解できないのも無理はないと言うことだ。
だが、残りの書籍にはそれらの式の解説や言葉の意味が記されていた。
また、冊子の一つは箱についての解説が図と共に記されていた。
フィヴはそれらの本を何日もかけて読み解き、とうとう白い箱の開け方を理解することができた。
ところで、フィブがその仕組みに気付く以前、彼女はたまに挫けそうになることがあった。
そんな時はその箱をハンマーなどで思い切り叩いてみたり火で炙ってみたりもしてみた。
だが、驚くべきことにそこには何の変化も見られなかった。
傷どころかへこみすら与えられなかったのだ。
こんな頑丈な物質は見たことも聞いたこともない。
それをこんな直方体に成形する技術があるなんて……!
フィヴはその後、半年以上かけてやっとこさ本に書かれていた磁石なるものを作成し、いよいよその箱を開けるに至った。
その磁石は磁力どころか形までもが指定されており、相当手間のかかるものであった。
フィヴは早速磁石を箱に近付けると図面の解説書通りにそれを動かしてみた。
どうやら磁石に備わっている金属を引き付けるという性質を利用して箱の中にある仕掛けを作動させるようだ。
格闘すること30秒、箱からピピッと音が鳴ったかと思うと、その箱の上部が一定の速度でスライドした。
中を覗くとそこには白い立方体状の箱と黒い小さな板のようなものが透明な器具で固定されていた。
立方体の一辺は10㎝強、板の大きさは1㎝×2㎝といったところだ。
さて、これについては書籍にも一切触れられていないが一体どうしたものだろうか……。




