494 牢獄の令嬢
鳥山は震える身体を縮こませながら腕を組んで考えていた。
「寒い……こいつぁ確かにやばいな……。さて、どうしたもんか……。」
ここは牢獄。
恐らくは地下牢だと思われる
鳥山はその一室に死刑囚として閉じ込められていた。
鳥山は先程からこの身体から伝わる記憶を整理していた。
この身体の主だった者の名はフィヴ・コーク。
ザン・コーク領、領主の娘だ。
では、なぜそんなに身分の高い人間がこれから処刑されなければならないのか。
それはフィヴが違法実験をしているのがバレてしまった為だった。
とは言え、それまでも何度か違法な実験についてはバレており、その度にお咎めはあった。
だが、今回の場合は色々と巡り合わせが悪かったようだ。
フィヴは生まれつき魔力を扱えなかった。
魔力を使おうとすると強烈な拒絶反応が引き起こされてしまうのだ。
領主であり、フィヴの父親であるザン・コークはそんな娘を以前から疎ましく思っていた。
彼は屋敷の者全員にフィヴが無能者であることについて箝口令を敷いていた。
ザン・コークは残忍な男で、例えそれが我が娘であろうと自分にとって障害となる者であればいつでも処分してしまう。
もし、年中顔を合わせていようものならフィヴはもうこの世にいなかったかもしれない。
だが幸いなことに、彼がフィヴの住む屋敷に戻ることは殆どなかった。
それが幸いしてか、フィヴは幼少の頃から比較的自由な環境で育てられた。
但し、外出や外部の者との接触は厳格に禁止されていたのでその行動範囲は家の敷地内に留まっていた。
フィヴは屋敷内にある書庫をうろついてはおもしろそうな本を物色していた。
その内容はと言えば主に自然科学や代数・幾何、そして何より建造物等の設計図であった。
但し、設計図については本と言うより大きな巻紙のようなものの方が多く、本にはそれらの解説などが記されていた。
鳥山からすればそれらの本の内容はどれも低レベルではあったが、魔力を扱うこの世界の仕組みや見識については学べることも多かった。
「ま、魔力なんて便利なものがあれば科学なんか必要ないってか……。」
この世界に君臨しているのは王家と呼ばれる人々らしい。
そして、王家の住む城の周囲には王族の屋敷が取り巻くように点在し、更にその外には貴族たちが領主と呼ばれる者を中心として居を構えていた。
フィヴ(鳥山)のコーク家はこの貴族という地位にあった。
しかも、領主の娘だからかなりの高い地位だ。
どうやらこの世界はその王家を中心として円形上に広がっており、身分が低くなるほど居住区の物理的な距離が中心から離れているようだ。
貴族の外側には特権階級、上級市民、平民、下民と呼ばれる者たちの居住区がそれぞれ円を描くように配置されていた。
つまり、完全なるヒエラルキーが形成されていたのだ。
人口の分布からすれば、特権階級以上は極少数で上級市民は全人口の1%、平民は4%、下民が10%ということらしい。
そして、残りの85%は人非人と呼ばれる下民にも及ばない人たちだった。
これらの階級はその家系の者たちが使える魔力の大きさによってほぼ決定するらしい。
何故なら魔力を扱える大きさは遺伝するとされていたからだ。
だが、高い階級にあっても稀にフィヴのような魔力を扱えない者が誕生する場合もある。
そういった時はひそかに処分してしまうか、或いは血を繋ぐ為だけの存在として幽閉しておくか。
フィヴの場合はどちらかと言えば後者であったかもしれない。
しかし、当のフィヴはそんなことには頓着せず日々を好奇心の赴くままに過ごしていた。
彼女は家にあったあらゆる文献を読み漁った。
また、倉庫に眠る世界中から取り寄せた家具や調度品、宝石類や鉱物などを勝手に分解し研究していた。
周囲の者からすればものを破壊しまわる危ない子どもであり、それが却って邪魔者を寄せ付けない結果となった。
そんな子どもには周囲の者も下手に取り合おうとはせず、彼女の言う通りに振舞っていたのだ。
フィヴはそれをいいことに数々の実験器具を外部から取り寄せたりしていた。
そして、いよいよ研究に熱が入るとその倉庫を勝手に改造して研究室にしてしまった。




