493 裏稼業の請負人
パープルさえも太刀打ちできない何かが敵の中に存在する。
早見さんはその事実を知ると更に渋い顔となり「うーん……」と唸った。
「しかし、そうなるとますます捜査は難航しそうですね……。何か事件解決の取っ掛かりになるようなものでもあればいいのですが。」
パープルは頭を抱える早見さんに一つ提案した。
「取っ掛かりとなるかは分かりませんが一つ。壊田ベイガという男に関して調べてみるのはどうでしょうか。冥土やGmUに関してはフィナさんの能力を以てしても未だ情報を引き出せていませんが、壊田については難なく調査できていますので。」
早見さんはその話に食いついた。
「成程、その壊田ベイガという男について調べればそこから情報を引き出せるかもしれませんね。」
私はその壊田という男についてパープルに確認した。
「ねえ、パープル。その壊田って男のことは何か分かってるの?」
パープルは即刻その男について話し出した。
「はい、壊田ベイガというのは本名です。彼は幼少のころから素行が悪く暴力事件も度々引き起こしていました。因みに三年前の企業恐喝事件の犯人である雑魚井シメオは彼の中学校時代の同級生です。」
早見さんはそれを聞いて意外だという顔をした。
「何と! ここでそんな繋がりがあったとは!」
パープルはこの先の話にも言及してよいかを早見さんに確認した。
「早見さん、実は昨日の事故の被害者についてなのですが……。」
早見さんは勿論といった感じでそれを承諾した。
「ええ、言ってもらっても構いません。」
パープルは再度確認するように謝辞を述べ、それからその被害者について語り出した。
「ありがとうございます。それでは言わせていただきます。今回の事故で死亡したのは偽山ギロウ。彼はご存じの通り、警備員なりすまし事件の犯人でした。が、それを直接指示していたのは正しくこの壊田ベイガだったのです。」
皆、唖然としていたが一番唖然としていたのは何を隠そう私自身であった。
「な、何だとぉぉ!?」
パープルは壊田について更なる情報を伝えた。
「この壊田という男は大学卒業と同時にBTAFの日本支部へ入社しました。そして、今から五年前に退社し、それからはフリーで仕事を請け負うようになったのです。冥土センケツとはその際ネットを介して偶然知り合いました。」
早見さんは納得したように「成程……」と呟きながら私を見つめた。
「すべて辻褄の合う話です。仕事上、裏は取らせていただきますが、とても参考になりました。本当に助かります。」
何か私が話したみたいになってる……。
蟹江さんは時計を見つつ早見さんに助言した。
「早見さん、そろそろ十時だけど会議の方は大丈夫なの?」
早見さんはそれを聞いて「おっ」と言いながら時計を見た。
「ああ、もうこんな時間ですか。ではそろそろ会議の方に向かわせていただきます。後ほど研究開発部の会議には出席させていただきますので。」
蟹江さんは早見さんに挨拶をしてから蛯名さんに尋ねた。
「よろしくお願いします。えっと、何時ごろから出席してもらえばいいかしら。」
蛯名さんはタブレットを見ながら早見さんに伝えた。
「二時、う~ん、早くても一時半ごろですかね……。」
「二時ですか。その頃にはこちらの会議も終わっていると思います。緊急の用でもない限りは待機しておりますので、その時になったら連絡をください。」
「分かりました。あ、先程の資料、早見さんのパソコンに直接送っておきますので。」
「何から何までありがとうございます。それでは皆さん、また後ほど。失礼いたします。」
早見さんはそう言うとモニターから姿を消した。
蟹江さんは苦笑いしながら蛯名さんを見た。
「蛯名さん、私にもその資料見せてくれる? 何だか頭がこんがらがってきちゃった。」
空知副社長も笑顔で蛯名さんにお願いした。
「ああ、私にもお願い。あ、でも文書だとまずいか……。誰かに見られちゃうかも。」
蛯名さんは空知副社長にこれからの予定を聞いた。
「空知副社長、この後はどうされるんですか?」
「そうね、戻ったところで皆に相談するわけにもいかないし……。何だかこの情報を持って外に出るのも怖いわね。お邪魔じゃなければここにいようかしら。色々調べたいこともあるから、ここの方がフィナさんの防御も受けやすいんでしょう?」
それにはパープルが返答した。
「はい、防御範囲の優先順位からいっても3Dボカロ社内の方が安全と言えます。」
蟹江さんは笑顔でその意見に賛成した。
「うん、その方がいいと思います。食事もここで取れますから。」




