491 言っちゃダメなやつだった
早見さんはそれを聞くと益々険しい顔になった。
「冥土はそのzouoという組織が発注元だと知っていたんですか?」
「いえ、それとは知らずに仕事を依頼していたようです。」
早見さんはそれを聞くと怪訝な顔つきで呟いた。
「一体何故そんな遠回りなことを……。それなら自分たちでやってしまった方が早いではないですか。」
「どうやらZ国は何らかの方法で冥土センケツの能力に気付き、彼を監視、及び調査していたのではないかと思われます。そして、彼の能力に確信を得たところであわよくば自分たちの組織に取り込もうとしたのかもしれません。」
早見さんは考え込むように下を向いたが、顔を上げると特に気に掛かったことを質問した。
「冥土センケツの能力に気付いた……ということですか。けど、そんな特殊な能力に一体どうすれば気付くことができるのでしょうか?」
「それについては現在調査中なのですが……ただ、Z国やデーモンズの裏に何か大きな、私たちの領域を遥かに超越した途轍もなく強大な存在を感じます。」
蟹江さんと蛯名さんは顔を見合わせた。
「あら怖い。なあに? その強大な存在って。」
パープルは意味ありげに早見さんに確認した。
「早見さん、ここで蟹江さんたちに伝えてしまってもいいでしょうか?」
早見さんは何か思い当たることがあったようだ。
「成程、昨日会議で出た”あれ”のことですね。もうここまで来たら隠しておいても仕方ないでしょう。是非とも教えてください。」
「分かりました。それでは……。」
蟹江さんたちは興味ありげにモニターを凝視した。
「その存在の正体。それは彼らが『ゲーム』と呼んでいる何者かです。それが個人なのか組織なのか、またはAIなど別の何なのかは今のところ分かっていません。しかし、それこそが一連の事件、または大きな流れの中心になっているようです。」
蟹江さんはそれを聞いて何かを思い出したようだった。
「ゲーム? ああ、あのゲーム機のやつじゃなくて……あれよあれ! ニーケが言ってたやつでしょ? ねえフィナ、何か言ってたわよね。」
私はその言葉を聞いて恐れ戦きながらもゆっくりと頷いた。
「はい、ゲームってあれですよね……って!」
私は言ってる途中ではたと口を止めた。
やばい! これは言っちゃダメなやつだった!
そう、私とニーケに前世の記憶があることはサユリと蟹江さん、蛯名さん、それとニーケのマネージャーである春日さんだけの秘密だったのだ!
ど、どうすれば!?
私はパニクってしまった。
蟹江さんも漸くそれに気付いたようで「いっけね」といったような表情をしていた。
その時、蛯名さんが助け舟を出してくれた。
「ニーケさんが前に予知能力を使った時、そのゲームってのが怪しいって言ってたような……。」
蟹江さんは速攻でその話に乗った。
「そうそう、それ! 言ってた言ってた。ゲームって名まえがスッと出て来たって。」
早見さんは少し眉を上げてこちらを見た。
「そうなんですか……。」
怪しまれとる! 完全に怪しまれとる~!
私は思わずパープルに相談した。
>パープル、パープル!
>はい、なんでしょうか。
>これ、正直に言った方がいいのかな、この二人には。ゲームの話まで出て来ちゃってるし……!
>単刀直入に言わせてもらいますと言ってしまってもかまわない、というより言うべきかと。
>でもさ、早見さんに言うってことは警察の人にも話が行くってことだよ?
>果たしてそうでしょうか。
>え、どゆこと?
>例えば今回の事件の黒幕や七天子の正体などについては一つの可能性として伝わることになるでしょう。しかし、前世の記憶があることについてはそもそもその事実を証明できることではありません。ですから、こちらの思い込みとも捉えることができるのです。
>そうか、私が初めて蟹江さんに打ち明けた時みたいに言えばいいのか!
私が初めて蟹江さんたちに前世の記憶の話を打ち明けた時、確か「夢かもしれない……」みたいな感じで切り出したのを覚えてる。
けどまあ、その時は蟹江さんも蛯名さんも待ってましたとばかりに私の話に食いついて来たのよね……。
>それと、理由は他にもあります。
>そうなの?
>今日、蟹江さんと蛯名さんはルンファーの台場さんと会われる予定でしたよね。
>うん、そんなこと言ってたね。
>詳細は言えませんが、その話が発展していけば遅かれ早かれこの前世の問題に触れざるを得なくなるでしょう。何故ならファランクスの前世の話がすべての根底にあるからです。
>ああ、ゲームね……触れたくなかったー!
>そう言ったわけで、何れ話さなければならないのであれば早い方が良いかと考えた次第です。
>ゥオッケー! わっかりましたー!




