486 永遠の別れ!
と、なればカナタが話してくれた例の能力とやらがあってもよさそうなものだ。
確か高次元脳力とか言っていただろうか。
ただ、その時の話によれば始めの内はレベルが低くて殆ど使い物にならないとのことだった。
いやいや、さっきのあれは結構使えましたよ?
疾風の動きだって楽々と読めたしさ。
一体、自分の状態はどうなってるってんだろうか。
そもそもこの世界って現実なのか?
北守の頭の中からは訓練の場がゲーム内であるという記憶だけが消去されていた。
ただ、それ以外の記憶は過去のものも含めてすべてそのまま残っていた。
北守はカナタが消えゆくシーンを今一度回想した。
その時、彼女の中の直感が強く働いた。
「あの時のカナタさんの目は芝居という感じではなかった……。本当に悔しそうな、そんな目付きをしていたような気がしてならない……。」
なら、自分たちは本当に転生してしまったのだろうか?
GmUとの戦いはどうなる……負けたってことか?
北守は閉じていた目を見開いた。
じゃあ、家族とももう会えないのか……?
北守の目からは涙が溢れ出た。
「そんなことがあってたまるものかい! そんなことが……!」
私は今朝唐突に昨日起きた交通事故の件についてサユリから聞かされることになった。
それによれば3Dボカロ社の親会社であるコスパルエイド社の開発した自動運転システムが原因らしかった。
私とサユリが蟹江さんに連絡してみると、そこには蛯名さんの他にコスパルエイドの空知副社長が顔を出していた。
で、五人で話し合った結果、サイバーポリスの早見室長にも連絡を取ることになった。
早見さんも私たちと連絡を取りたかったようで、結局六人で話し合いをすることになった。
そして現在、先ずは我々が掴んでいる情報をすべて早見さんに打ち明けることにしたのだった。
蛯名さんは今ここで話したことを要約して早見さんに伝えた。
早見さんは初めのうちこそ冷静な顔で聞いていたが、話が進むにつれ目を顰め、遂には驚愕の表情となった。
蛯名さんがすべてを話し終えると早見さんは瞬きもせず、ただ一言だけ呟いた。
「何と…………!」
そらまあ、驚くよね……驚くでしょうとも!
あ、ちょっと待てよ……。
私、ハッキングとかで逮捕されやしないだろうね!?
やったのはパープルですよ~!
早見さんは暫し言葉を失っていたが、徐に口を開いた。
「そうですか……いえ、確かにそれなら合点はいきます……。ただ、俄かには信じ難いと申しますか……いえ、決して疑っているのではなく……。」
蟹江さんはそんな早見さんの心境を組んで言葉を掛けた。
「気にしなくてもいいですよ。私たちだってまだ半信半疑なんだから。」
空知副社長も苦笑いしながら軽口を叩いた。
「私なんてね、フィナさんがボーカロイドってところからしてまだ信じられてませんからね。あ、ごめんなさい、フィナさん。悪い意味ではないのよ。」
私もそれに調子を合わせた。
「いえ、気にしないでください。私だってまだ自分がボーカロイドなんだって実感が湧いてないくらいですから。」
すると、サユリと蛯名さんまでもが強烈な眼力で私を見つめた。
あら、何かまずいこと言ったかしら……。
一瞬思考を停止していたらしい空知副社長はいきなり笑い出した。
「あら、あっはっはっは! 冗談まで人間みたいに言うのね……。」
そして、意を決したようにこう断言した。
「いえ、もう私はフィナさんを人間だと思うことにするわ。うん、決めた!」
私との会話に余程違和感を抱えていたのだろう。
まあ、そりゃそうか。
だって、ちゃんと話すのって今日が初めてだしね。
早見さんは私の方をじっと見つめながら尋ねて来た。
「ところで、先程お話に出たコンピューターと言うのは……私とも会話ができるんでしょうか?」
私はパープルに聞いた。
「パープル、いい?」
パープルは今回は何の躊躇もなく早見さんと話し出した。
「はじめまして、早見室長。私はパープルと申します。フィナさんをサポートする為のコンピューターです。」
早見さんは冷静な態度でパープルと会話を始めた。
「はじめまして、パープルさん。私のことをご存じなんですね。」
「はい、存じております。この地球上に現存する全てのネット端末と繋がっておりますので……。勝手にいろいろなことを調べてしまい申し訳ありませんでした。」
ちょ、ちょっと待って?
これ、私がやったってことになるよね!
私がハッキングで入っちゃいけないところから情報引き出してるってことになってるよね!
ぎゃあ!(←今日のマイブームみたいになっている)




