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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
480/625

480 オオカミだぞえ!

 その刹那せつな、先頭のオオカミがタタッとこちらに近づいて来た。

「喰われる!」


 蛇代は咄嗟とっさ、近くに見えた木に飛びつこうとして必死にジャンプした。

 なるべく高く! 上へ!


 が、気が付くと何故なぜかかなり高い位置にあったはずの木の枝付近に飛びついていたのだ。

 蛇代はあわててそこから枝の上へとにじり登った。


 さっき確認した時、その枝の高さは優に5メートルはあった。

「ん? 何でこんな高いところに……。」


 下を見ると、思った以上に多くの灰色オオカミがうようよと寄って来ていた。

「うわわわわ! これは是が非でも下に落ちるわけにはいかないぞぉ!」


 どうやら幸いなことに狼たちは登って来れない様子であった。

 蛇代はホッと溜息ためいきをつき、少しだけ平静さを取り戻した。

「さてと、これからどうしよう……。」


 頼みの綱は今発動したらしいこの能力のみだ。

 蛇代はこの力にどんな性質があるのかを考えてみた。


 さて、思い当たることと言えば……一つに寒さを感じなくなったこと。

 それどころか少し走ったことで暖かく感じるほどだった。


 そしてこの……跳躍ちょうやく力?

 これは元々この身についていた力なのか?


 いや、どうもそうとは思えない。

 何故なら、まだ寒さを感じていた時は雪を踏みしめて歩くのもやっとな状態だったのだ。


 そう、考えてみればオオカミから逃げる時、かなり軽快に走っていたような気もする。

 とは言え、オオカミほどのスピードが出なかったからこそ、ここにこうしている羽目になったのだが。


 はてさて、思い当たることと言えば先程自分の言ったあの言葉だ。

 そう、この能力は確かに自分があの時思い描いたウサギのそれに近いものだった。


 これはもしかすると……!

 先程まで下をうろついていたオオカミたちはどこかに消え失せてしまったようだ。


 蛇代は耳を澄ませてみた。

 すると、少し大きな木の陰や岩の裏手からオオカミたちの息遣いきづかいが聞こえて来た。


 ウサギの耳は人間の倍以上の周波数を感知することができる。

 この聴覚のお陰でさっきもオオカミの気配に気付くことができたのだ。

「ちょっと待てよ……。確かウサギって視力は悪かったはずだよな。」


 だが、蛇代の視力に問題はなさそうだった。

 いや、むしろ転生前よりもはっきりと見えるくらいだった。

「成程、これはこの身体が元来持つ視力ってわけか……。つまり、ウサギの特性をいいとこ取りできるってわけだ。もしかして、さっき草食えたのも能力こいつのお陰か?」


 さてと、それはまあ取りえず置いておいて……この状況、どう打開したものだろうか。

 蛇代はここでふと考えた。

「さっきは寒かったから咄嗟とっさに毛皮のあるウサギを想像しちゃったけど、この能力に汎用性はんようせいがあるってんなら他の動物にも変化できるかもしれないな……一丁いっちょう試してみるか! と、その前に。」


 蛇代は木から落ちないよう、しっかりと木の幹に手を回した。

 これは、先程能力が発動する前に身体が動かなくなったことを思い出したからだ。


 つまり、動物の能力を得る時に身体が一時動かなくなることが予想されたのだ。

「落ちたらやばいもんね……。」


 そして、蛇代はその言葉を口に出してみた。

「鳥になりたいな……そんでそんで、そ~らを自由に飛びたいな~♪」


 と歌ってはみたものの、実際のところはどうだろう。

 先程、この身体がウサギの姿に変わることはなかった。

 姿が変わらないってことはつまり翼はなし……え? 翼がなくても空って飛べるものなんだろうか?


 だが、それは杞憂きゆうに終わった。

 結果的に鳥の能力は得られなかったからである。


 蛇代は鳥になりたいと念じ、いつ空を飛べるようになるのかわくわくしながらその時を待った。

「けど、これってどうやって試したらいいんだ?」


 空を飛ぶと言っても自然と空中に浮かぶわけではない。

 つまり、木から飛び降りてみたりしなければこれを試すことはできそうもないのだ。

「う~ん、どうしたものか……。」


 一度木から下に降りてしまえば近くにひそんでいるオオカミたちが疾風しっぷうごとく駆け寄って来るだろう。

 だがもし、その時ウサギの能力が解除されていたら……もう二度とここに上がってくることはできないのだ!

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