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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
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48 静かな湖畔の森の影から

 私は昨晩用意しておいたものを呼び出した。

 もんの外側の空間が少しゆがみ4つの光を発したかと思うと、そこに4頭の馬が現れた。


 この馬は1日1ポイントで1頭借りることができる。

 前日から予約しておくと何と1ポイントで4頭まで借りることができるのだ。

 しかも『誰でもすぐに乗馬できます。』とのことだった。


 私はず自分が馬に乗ってみた。

「うわ、高い!」

 説明書通りあっさりと乗れてしまった。


 アテナが聞いて来た。

「これは馬? 映像でしか見たことないけど思ってた以上に大きい!」


 ニーケははしゃいだ。

「まさか乗馬ができるなんて。素敵!」


 ニーケは早速乗馬用の服装にチェンジした。

 メーティスは初めて見る馬に驚いていた。

「馬……何と美しい……。」


 私は3人に騎乗するよううながした。

「この馬は安全に乗れるみたいだから、みんなも乗ってみなよ。」


 ニーケは早速騎乗すると嬉しそうにしながらアテナとメーティスに顔を向けた。

「2人とも、これにお着換えなさい。」

 ニーケがさっと手を振ると2人とも乗馬用の服装に変化した。


 初めての服装に少し戸惑うも、アテナは意を決して馬に乗った。

「わあ、高い! 見晴みはらしがいい!」


 メーティスも初めてとは思えない身のこなしで颯爽さっそうと騎乗した。

「おお、これが乗馬か!」

 やはり3人ともさまになりますな。馬にして正解!


 私は馬をゆっくりと走らせてみんなを先導した。

「じゃあ、取り敢えずあの林の辺りまで走らせてみましょう。」


 ニーケは早速私に続いて馬を走らせた。見事な手綱捌たずなさばきだ。

「さあ、行きましょう!」

 何か発起人の私よりさまになってね? この人たち……。


 続いて戸惑いながらもアテナとメーティスが馬を走らせた。

 私は後ろを振り返り大きな声で言った。

「私も外に出るのはほとんど初めてだから、みんなも一応気を付けてね!」

 そして馬を加速させた。体感速度は原付くらいかな。


 実は前世では一度も乗馬などしたことがない。

「乗馬、サイコー!」

 後ろを振り返ると3人とも程よい間隔で付いて来ている。


 10分程走ると私たちは目的の林まで行き着いた。

 林道をしばらく走って行くと、左前方に水面らしきものが光を乱反射させている。

 私たちが更に奥へ進むと、そこにはコバルトブルーの美しい湖が広がっていた。


「みんな、ここで一息つきましょう。」

 私たちは馬を降りて湖の方へと歩き出した。


「どうだった? 乗馬は。」

 アテナは興奮していた。

「楽しかった。歌やダンスの他にもこんな楽しい事があったなんて信じられない!」


 メーティスは呆然ぼうぜんとしている。

「乗馬……何て素晴らしい! 心と身体が如何いかんともしがた躍動やくどうしているのがわかる。まさか、私がこれほどまでに心酔してしまうとは……。」


 ニーケはニコニコしながら言った。

「メーティスったら走り出したら感動して涙を流してたのよ。」


 私は嬉しかった。

「そう! みんなに喜んでもらえて私もここに呼んだ甲斐かいがあるってもんだわ。」


 ニーケは言った。

「本当に、外に出られただけでも感動でしたのに。こんな体験までさせられては感謝のしようもございませんわ。」


「まあ、そんな事気にしないで。楽しみましょう!」

 私も久しぶりの解放感に少し興奮している様だ。


 生い茂る木々や植物を楽しみながら足を進めて行くと、やがて湖のほとり辿たどり着いた。

 コバルトブルーの水面がチラチラと光を反射させ、その深淵しんえんさを見せつける。


 メーティスはまたも一筋の涙を流しながら言った。

「何て荘厳そうごんなんだ……。」


 アテナもうっとりしながらささやいた。

「綺麗……。」


 ニーケはふとつぶやいた。

「ええ、是非ミネルヴァにも見せてあげたいわ……。あ、ごめんなさい。」


 ミネルヴァがミナミとして覚醒してから4日目、ニーケのスキルによればそろそろミナミの記憶が消えゆく頃に差し掛かっていた。

 皆それを知っていたが故、それ以上その事は口に出さなかった。


 私は言った。

「この風景、何か詩人になれそう。」


 ニーケはゆっくりと歩きながら歌い始めた。

 その美しい歌声にきつけられて私たちも一緒に歌い出した。

 ああ、何て素敵なコーラスか。我々ながら……。


 大自然の中に私たちのハーモニーが高らかに響き渡った。

 するとそこに1匹のうさぎが寄って来た。

「うさぎさん、私たちの歌を聞きに来てくれたのかね?」


 気付けば周りに次々と動物たちが集まって来て私たちの歌声を楽しんでいる様だった。

 ちょっとしたコンサート気分。


 でもいいのかこれ、どっかで観たことのあるシチュエーション。

 あの著作権にうるさい海外アニメの老舗しにせのやつ……。


 リスに猫、たぬきにきつね、アライグマ、猿、イノシシ……。

 遠巻きからは鹿やカンガルー、象やゴリラにコアラまでこちらを見ている。

 ここの生態系大丈夫か?


 ん? 他にも珍しいのがいるぞ。

 アリクイ、アルマジロ、カモノハシ、山本、スカンク、パンダ、……。


「さて、今日はそろそろ帰りましょうか。」

 私たちは馬のいる方に戻って行った。


 アテナは言った。

「本当に素敵な一日だったわ。フィナ!」


 メーティスも目を輝かせながら言った。

「フィナ、不躾ぶしつけかもしれないがまた来させてもらってもいいだろうか。」

「勿論! みんなの所に『庭』が表示されるまでいつでも来てもらっていいから。」


 言っていて私は一つひらめいた。

「そうだ。玄関室は4人の共用ってことにしましょう。そうすれば私が対応できない時でも自由に外へ出られるでしょう。」


「え、それはとても嬉しいが、いいのか?」

「勿論! むしろそうして欲しいくらいよ! ただ……。」


 メーティスはまるで少女の様な瞳をして私に尋ねた。

「うん、何でも言って欲しい。」

「いえね、この"外の世界"は色々変更することができるのよ。ジャングルや雪山、村や街、他にも色々ね。だからもし変更するときは連絡入れる様にするわ。」

「成程、わかった。お安い御用ごようだ。それに私もここ以外の"外の世界"を見てみたい。」


 アテナも目を輝かせながら言った。

「私もいいの?」

「当たり前でしょう。勿論ニーケも。4人の共用って言ったでしょ。あ、使うとき私にいちいち報告しなくていいから。勝手に使ってね。」


「やった!」

 アテナは両手の指を組んでよろこんだ。


 ニーケは先程から妙に"何か"を気にしている様だ。

 アテナは心配そうに言った。

「どうしたの、ニーケ。先程から様子がおかしいけど。」

「いえ、何でもありません事よ。オホホホ……。」


 この人案外嘘下手やな……春日さんに似たのかな。

【人物紹介】

 私 … 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた


【私のオーナー】

 本田サユリ … 私のオーナー。大学生。サナの姉。しっかり者

 本田サナ … 私のオーナー。9歳。サユリの妹。歌が大好き


【私のナビゲーター】

 斎藤節子 … ナビゲーター。部長

 ナミエ… 正式名称C73EHT-R。AIポリスの特殊捜査隊隊長。新米ナビゲーター(仮)

 山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手


【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット

 アテナ・グラウクス … オーナーは柿月ユタカ(ヨナの兄)

 メーティス・パルテ … オーナーは星カナデ

 ニーケ・ヴィクトリア … オーナーは春日クルミ

 ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … オーナーは大地ミノル


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