479 大ピンチだもの!
蛇代はカナタが訓練の中で『高次元能力が使える』と言う言葉を発していたことを思い出していた。
だが、それは訓練の中でのことだ。
生まれ変わったこの世界では当然使える筈もなかった。
「あぁ、変身できる能力でもあればなぁ。毛皮のあるウサギか何かに……。」
実のところ、Z組の六人が一度目の闇にのまれた時、既に訓練がゲーム内で行われるという認識は記憶から消されていた。
ただ、訓練がこれから始まり、そこでは高次元能力のみが使用できること。
そして、この世界にはZ組の仲間が全員転生しているらしいことだけが記憶として残されていたのだ。
勿論、蛇代のようにそれ以前の記憶はすべて残っていた。
つまり、ここがゲームの中の世界であるという記憶のみが消されていたのだ。
蛇代は取り敢えず少し高台になっている場所へ足を進めることにした。
「あれの向こう側に何かあるかもしれない……。」
蛇代は足を一歩前に出そうとした。
しかし、何故か身体が思うように動かなかった。
「う、遂に寒さで動かなくなったか?」
蛇代は硬直したままの身体に、ある異変が生じていることに気付いた。
「寒くない……いよいよ死ぬのか? 転生したばかりだってのに!」
蛇代は「うん!」と力を込めて身体を動かしてみた。
するとどうやら正常通りに身体が動くようになっていた。
「寒くないな。どうなってるんだ? まさか、本当にウサギになっちまったんじゃないよな……。」
蛇代は自分の身体を見てみたが特に変わった様子はなかった。
「何だか身体が火照って来たような気がするな……熱でも出て来たか?」
そんなことを考えながら蛇代は高台の方へと歩みを進めた。
途中、雪に埋もれた草がいくつか生えていた。
「腹は減っているが、さすがにこれは食えないよな……。」
蛇代は取り敢えずその笹のような植物の近くで足を止めた。
それを見ているうちに不思議とそれがおいしそうに思えて来た。
「食べられる……のか?」
蛇代はそれを口に入れてみた。
「ムシャリ……う、うまい!」
蛇代はあちこちの笹を食べまわった。
「ふう、大分体力が回復して来たぞ。何故か手足の痺れも取れてるし、こいつは何とかなるかも!」
だが、そんな矢先、蛇代の耳に不穏な音が飛び込んで来た。
ガサササ……。
「何だ? 遠くの方から聞こえるこの音は……!」
それは確かに何かの生き物が動いている足音であった。
しかもあちらこちらから聞こえてくるようだった。
「これは……狙われているような気が……。」
蛇代はゴクリと喉を鳴らしながら周囲を見回した。
雪が舞っていて視界は悪かったが、遠目に何かが素早く動いているのが見て取れた。
「こいつはヤバいのでは?」
蛇代はゴクリと喉を鳴らした。
そして、無駄と承知しながらも足早に歩みを進めた。
「どこか避難できる場所は……。」
この林の木々は太さが1メートル前後で高さもそれなりにあった。
だが、10~30メートル間隔で点在しており、枝はかなり上の方にしかない。
「高さは十分だが……登れないよな、こいつは……。」
もうここまで来ると安全地帯と言えるのは木の上くらいしかなかった。
だが、木の上に避難できたとて、ずっとそこに待機できるものではないだろう。
蛇代が小走りを続けていると、バババッと何かが雪の上を走る音が聞こえた。
蛇代が焦り振り返ると、50メートルほど先に一匹の灰色オオカミがこちらを窺いながらゆっくりと距離を詰めて来ていた。
よく見ると、その後方には数匹の灰色オオカミも待機していた。
「まずいぞ……こいつは!」
オオカミは歯を剥き出しながらグルルルル……と蛇代を威嚇して来た。
明らかに戦闘状態だ。
「やばい、やばいやばいやばいやばい!」




