477 さっさと始めようぜ
Z組の六人はカナタの後について部屋のドアから外に出た。
するとそこは先ほど入って来た白いビルの中ではなく、中央が吹き抜けになっている近未来的な建築物の中であった、
まっすぐだった白塗りの廊下は巨大な円形の回廊に姿を変え、通路の材質は金属性のものに様変わりしていた。
反対側までの距離は優に300メートルはあるだろうか。
中央には黒い塔のようなものが摩天楼の如く上空を貫き、下は底が見えないほどの高さとなっていた
蛇代は楽しそうにきょろきょろと辺りを見回していたが、歌寺はできるだけ廊下の壁側に近づいておどおどしていた。
「雰囲気とかいいから、さっさと終わらせてしまいたいわね……。」
鳥山はポケットに手を突っ込みながら中央の建造物を眺めた。
「もうゲームは始まってるってことなんじゃないのか?」
北守は上空を見上げながらその荘厳さをおもしろがった。
「いや、いくら何でも考え過ぎだろう。どうなんだい、蛇代。」
蛇代は両手を頭の後ろに組みながらそれに答えた。
「まあ、あるとしたらキャラメイクとかかね。ラウンジに行き着くまでに私たちのことをいろいろ解析してるとかさ。」
カナタはある程度進んだところで左折し、中央の塔に繋がる連絡通路を渡り始めた。
その通路を見て歌寺は足を竦ませた。
「ちょっと、何よこれ! 細い上に手すりが無いじゃない!」
この通路の幅は1メートル弱で手すりが無いどころか単に長い鉄板が何の支えもなく塔と回廊を橋渡ししているだけの代物だった。
蛇代も下を覗き込みながら苦笑いした。
「ひえ~、こいつは風でも吹いたら確実に落ちるね。」
歌寺は風の存在を意識してしまったことで恐怖心に拍車が掛かってしまった。
「ちょっと、蛇代! あんたねー!」
「大丈夫だって! 見てろよ!」
北守はそう言うといきなりその通路から飛び降りた。
「ちょっ……‼」
歌寺の心配をよそに北守は通路の外側で宙に浮いていた。
「だから、大丈夫だって。ここは仮想空間なんだぜ。足の踏み場くらい作りだせるってえの!」
歌寺は顔を引くつかせながら北守に文句を言った。
「先に言えってのよ! びっくりするじゃない! まったく……心臓に悪いのよ!」
鳥山は歌寺の肩をポンと叩いて通路を渡り始めた。
「まあ、そう言うな歌寺。つまりさ、北守は既に臨戦態勢に入ってたってことだよ。」
塔の入り口付近まで行き着くとカナタは視線を上に向けた。
「ふう、やっと着いた。皆、ラウンジはこの中よ。」
塔の入口から中に入り通路を少しばかり進むとそこには部屋の扉が待ち構えていた。
七人が扉から中に入るとそこは特撮ヒーローものにでも出て来る作戦室のような部屋となっていた。
中にはヴァルティンとヨルイチが待っていた。
「それでは皆さん、そこの椅子にお座りください。」
円状の机には十の席が用意されていた。
全員が席に着くとヴァルティンが話し始めた。
「これからZ組の皆さんには僕の作ったゲームの中に入っていただきます。」
蛇代は目を輝かせた。
「おー! 何だかワクワクして来た!」
歌寺は無表情で突っ込みを入れた。
「あんたはさっきからわくわくし通しでしょう……。」
ヴァルティンはそんな二人を無視するように話を進めた。
「とは言え、このゲーム内は実際に在り得た現実を元に作成された世界なのです。つまり、選択されることなく虚数空間へ移行してしまったとは言え、一つの現実候補ともなり得た世界なのです。そこであなた方はその世界を蹂躙する敵を倒さねばなりません。しかし、この世界は……。」
北守は何だか話が長くなりそうだったので彼の話に割って入った。
「つまりは、敵をぶっ飛ばしゃあいいんだろう? さっさと始めようぜ!」
早くゲームを始めたい蛇代もその意見に賛同した。
「そうだそうだぁ! さっさと始めようぜ!」




