473 目、怖いよ
蛯名さんは空知副社長から七天子の話が出たのをいいことに、どんどん話を進めてしまった。
「まだ分かりません。ただ、もしそうだとしたら台場さんが言う相談ってゆうのはその七天子のことだったのかもしれません。」
サユリは何やら私に向かって目配せをした。
私はそれを見て言わなければならなかったことに気付いた。
「あ、そうだそうだ。さっきも言おうと思ってたんですが……その七天子に何かあったみたいでした。」
蟹江さんと蛯名さん、そして空知副社長の三人は微笑みを称えて私の方を見た。
だが、三人の眼は笑っていなかった。
はい? 今、何か言われましたか? と言わんばかりに私を見つめているのだ。
こ、こえ~っ!
私は言い訳がましく言い訳した。
「いや、あの、ですね……。さっきほら、話の途中で割り込むのもなんだし、この話しちゃってもいいのかなとか……。はい、その後すっかり言うのを忘れてました! さぁせんでした!」
蟹江さんはプッと吹きながら右手を軽く振った。
「あはは、冗談よ。それよりフィナ、何かちょっと変わった? 垢抜けたっていうか……。」
そう言えばサユリとため口を交わすようになってから本音が少なからず駄々洩れしてるかも……!
でもま、垢抜けたって誉め言葉よね。
いいんじゃね?
私は少々照れながら蟹江さんに笑顔を向けた。
「ありがとうございます。私も少しは成長したってことですかね。」
そこに空知副社長が割って入って来た。
「それより今の話よ! 七天子がどうしたって?」
私はハッとして空知副社長の方を見た。
「あ、すみません。実はですね……。」
私は昨日から今朝に掛けて起こった七天子誘拐事件について三人に説明した。
「というわけなんです。今、ニーケもミーネも眠りに就いちゃってるからその後どうなったのかは分かりませんが……。ベルゼ何とかも消し去っちゃいましたし……。」
蟹江さんは不思議そうに私を見た。
「パープルに聞けばいいんじゃない?」
私はその言葉を聞いて暫し硬直した。
サユリは苦笑いしながらそれに応えた。
「そうですね、気が付かなかった……。」
蟹江さんはパープルに直接尋ねた。
「ねえ、パープル。あなた七天子が今どうなってるのか分からない?」
するとパープルは残念そうに答えた。
「今現在、七天子が何処にいるのかは分かりません。現在も全世界の仮想空間内を捜索中なのですが……何処にもその存在が認められないのです。」
私はその思いも寄らぬ結果を聞いて面食らった。
「えーっ! それってやっぱり敵に消されちゃったってこと?」
「必ずしもそうとは言い切れません。もし単にデリートされただけなのであれば必ずその痕跡が見つかるはずですから。」
今度は蛯名さんがパープルに質問した。
「そもそも七天子がどんな存在なのかすら分かってませんからね。パープルさんはその辺のところはその……どれくらい分かっているんですか?」
「そうですね。少しお待ちください。」
パープルはそう言うと、再度私の心に話し掛けて来た。
>ここからは先程フィナさんたちにも伝えていない内容となりますが話してしまってよろしいでしょうか?
>え、どんな内容なの?
>七天子と七天子を誘拐した者たち、それを奪還しに行った者たち、そしてそれらの黒幕等についてです。また、フィナさんの防御を無効化した男と謎のハッカー、緑と赤の正体。ファランクスがそれらにどう関わっているかについてもです。
>ひぇ~っ! あんたそれ全部分かってんの?
>黒幕の正体以外は大方調査が終了いたしました。但し、余剰次元的干渉については未だ説明不可能です。それと、先程のベルゼ何某についても……。
>まあ、ベルゼ……についてはいいわ。けど、あの流れだと謎の男の正体は分からず終いだと思ってた。
>はい、あの時点では不可能だったかもしれません。しかし、多くの事柄を調査するうちに私の能力が更なるグレードアップを遂げたのです。特に、新たに生み出された固有能力、『波動収束』はとても便利です。これは地球上に存在するあらゆる仮想空間から情報を回収して目的の事象を推理、または予想し、辻褄の合う内容を選択するというとても優れた能力となっています。
私はそれを聞いておったまげた。
>ちょっと! グレードアップ早いよ! それに、いくら何でも主の私から離れ過ぎでしょう! 私の知らないところで……何か、怖いよ!
>気持ちはお察しします。しかし、今はそれどころではないのでは?
>はうっ! その通りです! (補助コンピューターに窘められちゃったよ……トホホ)
>それで、どうしましょうか。何処までお伝えすればよいものか私には判断し兼ねます。
>ぎゃあ! 私に判断しろっての?
>はい。よろしくお願いします。
>ぎゃあ!
私は2秒ほど考えたがすぐさま諦めて皆を頼ることにした。
「何かパープルが更なる進化を遂げてましてぇ、そのですね……いろんなことが分かったみたいなんですけど。」
私は今パープルに言われたことをそのまま伝えることにした。
説明中、皆恐ろしい目つきで私を見つめていた。
又もや怖いのですが……。




