472 言っちゃう人たち
サユリは話が一旦停滞したところを見計らって話を元に戻した。
「そうですね、それについてはまた後ほど……。で、さっきの話に戻してもよろしいですか? 今後のことなんですけど、これからどうしたらいいですかね。」
蟹江さんは何かを思い出したような仕草をしてそれに応えた。
「あ、そうね。で、何だっけ……あ、その男の能力とやらでハッキングが可能になったのよね。けど、そもそもハッキングなんてできない筈でしょう。そうだ、さっきのあれ、なんて言ってたっけ。余剰次元的……えっと、干渉だっけ?」
蛯名さんは探偵の如く眉を顰めながら推理を進めた。
「赤と緑ではありませんが、ああいった存在が他にもいるんだとしたら……そういったことも可能なのかもしれません。」
空知副社長も緑と赤のことを思い出したようだ。
緑と赤については以前、空知副社長が参加したミーティングでも話が出ていた。
「例の『思考を読み取る』とかいうやつね。確かにそんなのがいたんじゃ私たちにはとても太刀打ちできないけど……。」
蟹江さんはここであの話題を口に出してしまった。
「ねえ、空知副社長に七天子のこと話したっけ?」
ああ、折角蛯名さんが敢えて触れなかったのにー!
空知副社長は眉を顰めた。
「七天子?」
蛯名さんは少し申し訳なさそうな表情で空知副社長を見た。
「そうですね。実は先程話にも出た謎の情報提供者のことなんですが……。」
蛯名さんは七天子と名乗る謎の情報提供者について空知副社長に伝えた。
空知副社長は初め何事かと怪訝な顔をしていたが話を聞いているうちに納得したような表情に変わっていった。
蛯名さんは七天子の詳細を話さなかったことを謝った。
しかし、どうやら空知副社長にとってそれはどうでもよいことであった様だ。
「うん、確かに犯罪めいてはいるけど……その判断は早見さんたちに任せるしかないでしょう。それより、話の続きを聞かせて。」
蛯名さんはここで七天子の話の他に、ファランクスのニーケとミネルヴァがその正体を見抜いてしまったことにも言及した。
空知副社長は七天子の存在についても驚いていたが、ファランクスの四人が持つ知性や能力についても文字通り目を丸くしていた。
「それは……そんなことがあったのね。いえ、ちょっとびっくりしちゃって。へぇ……あのファランクスがね……。でもまあ、フィナさん……とパープルさんが合わさったような感じなのかしらね。」
ぎゃあ! 私単独ではないんかい!
空知副社長はそんな私に無邪気な笑顔を向けた。
「それじゃあ、その七天子ってのが猫キャットを救い、その他諸々の事件を未然に防いでいてくれてたってわけね……。」
サユリはその返事として自分なりの見解を述べた。
「黒バットは3Dボカロ社へのサイバー攻撃が思惑通りにいかないと見るや、今度はボカロ本体やボカロの育成団体に矛先を変えてきました。しかも、その手段は猫キャット恐喝事件のように現実世界にも害が及ぶようなものになって来たと考えられます。それを七天子は仮想世界の中から妨害し続けていたということです。」
蟹江さんは納得したように頷いた。
「確かに、リアルの世界ったって連絡一つとるにもネットを使用するからね。黒バットにしてみてもそこを邪魔されたりしたらそうそう計画通りには進まない。」
空知副社長は半笑いで肩を窄めた。
「けど、その七天子も今回ばかりは手が回らなかったみたいね。まあ、神出鬼没で何のために助けてくれてるのかも分からないんでしょう? ちょっと当てにはできないかな。」
蛯名さんは何を思ったかここで突然蟹江さんに向き直った。
七天子に関することで何か思い当たることでもあったのかな?
「蟹江さん、すみません。少し話が逸れるんですが、ルンファーの台場さんとはいつ会われるんでしたっけ?」
蟹江さんは腕を組みながら天井を見上げた。
「う~ん、今日連絡くれるみたいなことは言ってたけど……何で?」
蛯名さんはゆっくりと頷きながら返事をした。
「ちょっと引っ掛かるところがありまして……。あの、私もご一緒してよろしいですか?」
サユリは蛯名さんの話しに何やらピンと来たようだ。
蟹江さんは首を傾げながら蛯名さんに尋ねた。
「それは構わないけど……急ぐの? こっちから連絡してみようか。」
蛯名さんは少し興奮気味に蟹江さんを見た。
「はい、できればお願いします。ちょっと確かめたいことがありますので。」
空知副社長は何気ない感じで蛯名さんに尋ねた。
「もしかしてあれ? そのルンファーが七天子とか?」
ぎゃあ! 言っちゃったよこの人!
それは言わない約束なのにーっ!
あ、でもあの時副社長いなかったのか。
それじゃあしょうがない……のか?




